2017年衆院選が日本の転換点といえる理由 みずほ証券エコノミストの上野泰也氏に聞く
――今回の衆議院選挙は与党、とりわけ自民党の圧勝に終わりました。このことは今後の日本経済にどのような影響を及ぼすと考えますか。
戦後日本の転換点となる選挙だった。改憲勢力が8割を占め、憲法改正に向けた大きな一歩となった。また、財政規律の緩みも決定的になった。自民党は消費増税をするが、借金を返さないまま使ってしまおうとの考えで、希望の党や立憲民主党は消費増税を凍結するということで、希望の党は財源のあてもなくベーシックインカムなどを提案している。与野党ともに財政規律に緩い考えを持っている。
財政規律が緩んできた原因の一つに、世代間対立があり、その背景には共通するプラットフォームの欠如があると考えている。
若い人からすると、親や祖父母の世代が景気刺激策の乱発や、社会保障制度の拡充で政府債務を勝手に積み上げた、自分たちの責任ではない政府の借金が国の年間のGDP(国内総生産)の2.5倍もあって、その返済を自分たちの世代に付け回しされるのはおかしい、という非常に合理的な判断があると思う。親の世代でなんとかできないのなら、デフォルトするならして、リセットしたところから出直したいという漠然とした意識があると思う。
だから、若い人たちは財政健全化というコンセプトからは距離を置きたがり、どちらかと言えばリフレ派的な発想になる。成長で吸収できないかとか、インフレで散らせないかという安易な発想に傾きやすくなる。
共通の情報源、共通の価値観がなくなった
共通プラットフォームの問題とは、新聞やテレビの影響力が落ち、NHKの7時のニュースのようなかつては誰もがみていたような共通の情報源がなくなっていることだ。SNS経由で情報を入手すると、短い、つまみ食い的な情報しか入らず、解説もない。財政健全化をしないといけないという共通の価値観が形成されないような情報の取り方に変わってきている。特定のバイアスかかったニュースソースの意見に流されやすくなるし、極端な議論にも流されやすくなる。
アメリカの場合は、共和党という財政規律がしっかりした政党が2大政党の中にある。日本にはそういう政党が見当たらず、どの党の公約もある意味ポピュリズム的に財政規律が緩い方向に流れてしまっている。
有権者の間でも財政規律の意識は緩くなっている。ある世論調査を見ると、消費税の使途拡大に賛成が59%、反対は31%と賛成が上回っている。国民の危機意識も薄れてしまっており、今回の選挙で財政健全化の必要性というコンセプト自体が危うくなってしまった。
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