2017年衆院選が日本の転換点といえる理由 みずほ証券エコノミストの上野泰也氏に聞く
――景気が緩やかに拡大して、市場の安定していることも危機感が薄れている一因でしょうか。
本来は、悪い金利上昇によって財政運営に警告が発せられるはずだが、今の日本では、債券市場の機能が日本銀行のオペレーションによって完全に麻痺してしまっている。イールドカーブコントロールで短期金利をマイナス0.1%に、長期金利をゼロ%近辺にピンで止めたようになっているからだ。
そこでカギとなるのは為替市場の動向だ。どこかで財政問題が円の信用問題に転じて、円を売る投機的な動きが加速すれば、悪い円安が起こり、インフレが進んで、日本がピンチになることが将来的には想定される。
ところがそうした動きはしばらく起こりそうにない。市場では中国という日本よりもっと大きいリスクファクターが意識されてしまっているからだ。
「中国やユーロ圏に比べて日本は安定」と見える
中国は構造不況業種を抱えており、産業の構造調整が必要だ。また、リーマンショック後の4兆元の景気対策で不動産バブルが崩壊して、地方政府に不良債権が溜まっている。現在は地方債の発行枠を拡大することで表面化しないようにしているが、どこかの時点で不良債権処理をしなければいけない。
人口動態でいうと一人っ子政策の影響で少子高齢化が急激に進むので、社会保障制度、年金や医療保険を整備しないといけない。ただ、これらを整備すれば、家計としては保険料を納入するため、可処分所得が減って個人消費が一段弱くなる。所得が減ると、厳しすぎる情報統制への不満が民主化要求や自由化要求に変わり、社会の不安定化につながる可能性もある。民族問題も火種になりかねない。
そんな中国に比べると日本は安定して見える。ユーロ圏もブレグジット(英国のEUからの離脱)やイタリア、フランスの政治問題で揺れていて、頼りない。そうであれば、「ドル」が不安定化した際の逃避通貨として、やはり「円」が適当だという話になる。この状況が続いているうちは、円という通貨が大きく揺さぶられることはなく、財政規律が緩んでも誰も問題視しないし、マーケット全体にも動揺が生じない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら