ヘリコプターで空から1万円札をばらまくがごとく、消費者や企業におカネを供給する。ヘリコプターマネーは、マネタリストとして高名なミルトン・フリードマンがマネーストックを増やす具体的な手段の例として、「たとえばヘリコプターから現金をばらまいたとしよう」と書いたのが始まりだ。バーナンキ元FRB議長がデフレ対策の切り札として提唱したので、デフレ対策として認識している人も多いだろうが、もともとはおカネの過剰供給が一時的には景気をよくするものの、いずれインフレを引き起こして大変なことになる、という警鐘だった。
ヘリコプターマネーの効果は、クルーグマンがいろいろなところで紹介している「ベビーシッターの会」のたとえ話で直感的によく分かる(注)。しかし、高齢化が進んでいく日本の状況が反映できていないので、ここではベビーシッターの代わりに家事の手伝いをする会に修正して同じ問題を考えてみたい。
「家事支援の会」で需給はどう変化するか
会員が互いに家事支援をする会を考える。この会の規約は子守が家事支援になっているだけで、ベビーシッターの会とまったく同じものだ。ただし会の置かれた状況が現在から将来に向かって大きく変化することを反映するために、会員の状況についての仮定を追加した。この会を運営していくためには、短期的に需給を安定させるということだけでなく、長期的にも問題が起こらないように気をつけなくてはならない。このめには、会員の高齢化が進むという変化を考慮する必要がある。
発足当初はあまり家事支援を依頼しない若い会員が多く、支援を依頼することが多い高齢会員は少ないので支援の需要は少ない。会員は病気のときや仕事が忙しいときなど家事支援を依頼する場合に備えて一定枚数の利用券を手元に確保しておこうとするだろう。このため発足時に会員に十分な枚数の利用券を配布しないと、会員が券の利用を節約しようとするのでさらに依頼は少なくなってしまう。家事支援の会の中で需要不足が起こってしまい、会の活動は不活発になる。
ここで、会員に利用券を追加で十分配布すれば、会員は万一の場合に使う券が確保できて安心して家事を頼むようになり、会の運営はうまく行くようになる。ヘリコプターマネーでおカネをばらまけば需要が拡大してデフレから脱却でき、経済活動が活発化するというロジックと同じ仕組みだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら