リクルート「最強の営業」が卒業を決めるまで 「5つの名刺」を駆使する森本さんの仕事論

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転職コンサルタントとしての研鑽(けんさん)を積んでいくうちに、森本さんは転職だけでなく、もっと広範囲の「人」の課題に応えたいと思うようになる。

「クライアントにヒアリングすると、そこで出てくる課題解決の方法は人材紹介だけじゃないんですよね。新卒採用、中途採用、それに、採用だけじゃなくて、教育、研修、人事制度設計などなど、いろいろなニーズがあります。そのようなご相談をいただく度に、自分が提供できるソリューションの範囲が『すごく狭いな』と痛感していました」

森本さんは、その都度それぞれの課題を解決できそうなパートナーを紹介していたが、いつも「あとはヨロシク!」になってしまうことが気掛かりだった。そこで、もっと責任を持って取り組もうと考え、会社経営者の名刺、言うなれば「K(キング)」のカードを持とうと決める。

「ターニングポイントとなった第2子の誕生日と同じ3月3日に、“morich(モリチ)”という会社を今年設立しました。社名の由来は、『森本千賀子』の愛称『モリチ』ですが、同時に“ch”に『チャネル』という意味を込めました。チャネルには、『海峡』や『運河』の意味があり、昔はチャネルの先には、町や村が栄え、強い文明があったといわれています。お仕事をご一緒させていただく方々の成長や繁栄につながるように、私たちの会社がチャネルになろうという想いを込めたのです」

森本さんの持つ5枚の名刺。彼女はパラレルキャリアの先駆者ともいえる(撮影:梅谷秀司)

こうして、森本さんは、人と人を結ぶ「転職エージェント」から、人だけでなく企業と企業、想いと想いを結んで、新しい「ケミストリー(化学反応)」を生み出す「オールラウンダーエージェント」へと進化を遂げていく。さらにNPOの理事や社外取締役も兼務し、5つのカードを自在に操りパラレルキャリアを実践していく。

2017年9月、リクルートを卒業

さかのぼること今から20年以上前、リクルート人材センターの入社式を迎えた森本さんは、先輩からこう言われた。

「森本、お前は今日からリクルートの看板を背負ったつもりでいるだろう」

森本さんが「はい」と応えたのに対し、先輩は続けた。

「会社の看板を背負って仕事することだけはやめろ。たとえ、会社のロゴが変わろうと、看板がなくなろうと、相手から“リクルートの森本”ではなく“森本”個人に仕事を頼みたいと思われるようにならないとダメだぞ。そういう自分ブランドづくりを意識しろ」

このときの先輩の教えを守り、固有名詞で仕事ができるようになった今、森本さんはある決意をした。

「リクルートを卒業(退社)します」

10月初旬に開かれた森本さんの新会社の設立パーティには、森本さんの門出を祝うため約400人が祝福に駆けつけた。大勢のゲストのまなざしの先には、赤いドレスを身にまとい、これからまた新たな挑戦に踏み出そうとする森本さんの姿があった。

川下 和彦 クリエイティブディレクター/習慣化エバンジェリスト

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かわした かずひこ / Kazuhiko Kawasita

2000年、慶應義塾大学大学院修士課程終了後、総合広告会社に入社。マーケティング、PR、広告制作など、多岐にわたるクリエイティブ業務を経験。2017年春より、新しい事業を創造し、成長させることを標榜するスタートアップ・スタジオに兼務出向。広告クリエイティブに留まらず、イノベーション創出に取り組んでいる。著書に『コネ持ち父さん コネなし父さん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ざんねんな努力』(アスコム)などがある。(撮影:原貴彦)

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