リクルート「最強の営業」が卒業を決めるまで

「5つの名刺」を駆使する森本さんの仕事論

「働き出してまもない頃はまだインターネットがない時代。(転職希望の依頼主に)電話で自宅に連絡するんですよ。すると、奥様が出られて、すごい剣幕で怒られるなんてことは日常茶飯事でした。『私は、どこどこ企業(有名企業)の主人と結婚したの! だから、変なところに転職させないで!』みたいなことを言われたのを今でもはっきり覚えています。だから、昔はよく電報を書いて、ばれないようにこっそり送ってましたね(笑)」

今でこそ転職をめぐる景色は大きく変わり、当時の大変な苦労話を笑い話にできる森本さんだが、新入社員時代はいきなり「ジョーカー」を引いたのではないかと思うこともあっただろう。しかし、彼女は周囲の価値観に惑わされることなく、自ら信念を貫き、新しい道を切り開いていく。

ブレイクスルーの瞬間

リクルートグループには、「新規開拓」の文化がある。入社すると、最初は先輩から数社の引き継ぎがあるものの、「ゼロ・アセット(資産ゼロの状態)」からスタートするのが原則だ。森本さんも、その例外ではなかった。

「アプローチ候補をリストアップして、電話して、アポイントを取って、訪問へと進めていくのですが、どんなに営業力があっても、まず百発百中ということはありません。確率で言うと、受注できるのは10%以下でした」

森本さんが会社に入ってからしばらく、営業に悪戦苦闘する日々が続いた。しかし、ひょんなことから森本さんは「これだ!」という仕事の手応えをつかむ。

「あるとき、銀行に勤めていた大学時代の友人が、私のことを思い出して連絡をくれたんです。その友人のお客さまの中に、食品スーパーのオーナーさんがいて、人事部長が辞めてしまって困っているとのことでした。そこで、さっそくその食品スーパーに伺ったところ、友人が事前に私のことを「信頼できる人だ」とポジティブなところをオーナーさんに伝えてくれていたので、いきなり握手を交わすところから始まり、流れに乗って、すぐにお仕事をいただけることになりました」

転職が当たり前ではなかった時代、転職希望者の家族から転職エージェントにクレームが入ることも多かったという(撮影:梅谷秀司)

この経験を通じて、今でいう「紹介営業=パートナーセールス」の原型を作っていった。森本さんは普段から人の役に立つことを考えて行動に移し、地道に信頼関係を築くことに努めるようになった。すると、周りの人が人材のことで相談したいと思ったとき、真っ先に「森本」という名前を思い出してもらえるようになっていった。

「もともと『人が困っているときこそ、私の出番!』と思う性分でしたが、人がやりたがらないことに対して、積極的に買って出るようにしました。新入社員時代は大して役に立たないので、会議室を予約したり、お弁当の買い出しに出掛けたり、会議で議事録をとったり、飲み会で幹事に名乗り出たり……。自分に何かできることはないかなと思い、単に言われたとおりにするだけでなく、印象に残してもらえるようなひと工夫を考えるようにしました。すると、『森本って思ったより、役に立つじゃん』と思い出してもらえるようになりました。その結果、いろいろな場面で呼んでいただき、しだいにビジネスチャンスが広がっていきました」

転職エージェントとして20年以上にわたり多くの案件に携わってきた彼女だが、クライアントだった「ある人」とのエピソードが特に印象に残っているという。

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