中国「違法ワクチン」、幼児の体に起きた悲劇 人命軽視、ずさんすぎる薬品行政の実態
李さんの大きな瞳から涙が流れる。抱かれた娘は、何も事情を理解していないのだろう。半開きの小さな口から、よだれを垂らしながら、目を細めている。笑っているようにも見える。その対比はあまりに切ない。
生後3カ月頃の写真を見せてもらった。まだ髪の毛も生えそろっていないが、ハイハイをしてクリッとした瞳をカメラのほうを向けている。焦点は定まっている。当時は健常な子にしか見えない。今の梓涵ちゃんは、母親がこうして話している間も、その腕の中で、時々、カクンと首を後ろにのけぞらせたかと思えば、今度は深くうつむくように前に倒れる。小さな口が時々「あうー」と言葉にならない声を上げる。母はそのたびに首を支え、ティッシュでしきりによだれをぬぐってあげていた。
李さんは“専門家”の結論に到底納得できなかった。
そうした中で起きたのが「山東違法ワクチン事件」だった。龐の犯行時期は、2013年6月から一昨年4月まで。娘が接種を受けたのは2013年の8月。ニュースは女が12種類のワクチンを扱っていたと報じていたが、その中には、HIBとポリオも含まれていた。
「疑っていますが、証拠がありません」
娘の打ったワクチンは事件と関連があると考えているのだろうか。
「私は関係があると思っています。出荷日を見ると子どもがワクチンを打った時期と重ねっています」
しかし事件発覚後に警察や衛生当局からの調べは一切ない。
それまで妻の話を黙って聞いていた梓涵ちゃんの父親の張継禄さん(28歳)にも同じ質問をした。もともと無口な人なのだろう。短い答えだった。
「疑っていますが、証拠がありません」。まさにこの家庭が置かれた状況だった。結局、娘がなぜ障害者になったかは今もわからないままだ。
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