中国「違法ワクチン」、幼児の体に起きた悲劇 人命軽視、ずさんすぎる薬品行政の実態
「本来、冷蔵保管すべきものなのに、引き出しに入れてあり、子どもがやってきたら、それを取り出して打つ。そんな状態で、品質に問題がないと誰が保証できるというのですか。私は、(息子に)問題のワクチンが使われたと思っています。それで副反応が出たのでしょう」
東昇くんがワクチンを打ったのは、コミュニティ衛生サービスセンターとでも訳すべき、地域住民の衛生や保健を管理する地元政府の最末端の施設だ。にもかかわらず、ワクチンを打った人物は予防接種の資格を持っていなかったことがその後、明らかになった。地元政府はその人物に対する処罰を発表するが、同時に、東昇くんの症状はワクチン接種とは関係ないという結論を出した。
そのコミュニティ衛生サービスセンターに電話をしてみた。
――薬は引き出しに入れてあったのですか。
「薬は冷蔵庫に入れてありました」
――山東の違法ワクチン事件のあと調査がありましたか。
「警察、衛生局、疾病予防センターなどいろんな部門が来て調査していきました」
――問題はなかったのですか。
「なかったです」
郭さんの話と食い違う。郭さんは今も補償と事実の解明を求めて陳情を続けている。陳情というのは庶民が地方政府や中央政府に直訴して問題解決を訴えるやり方だ。しかし、ほとんどの場合、門前払いか、たらい回しにされるだけでまともに取り合ってもらえない。郭さんの場合もそうだった。
国がやっているものだから、公表するわけはない
警察官が郭さんの元を訪ねてきたことがあるという。その目的は、事件のワクチンと東昇くんの症状との関係を調べに来たのではなく、「お前の陳情は違法だ」と郭さんに警告を与えるためだったという。冗談のような話だ。
今日に至るまで、中国当局は龐が流通させた冷蔵保存を逸脱したワクチンが誰にどのように使われたかは公表していない。少なくとも郭さん一家にとって、息子に何が打たれ何が起きたのかは闇の中だ。郭さんは寂しげに笑ってこう述べた。
「ワクチンは国がやっているものだから、公表するわけはないでしょう」
そもそもワクチンが冷蔵保存を逸脱し、常温や高温にさらされた場合、どのような影響が起きうるのか。川上浩司・京都大学教授(医学研究科 薬剤疫学)は、まず考えられるのは、ワクチンの成分であるタンパク質が変性してしまうと抗体が適切に認識しなくなり、免疫効果がなくなってしまう可能性であるという。
つまりワクチンが効かなくなるのだ。次に、タンパク質が壊れていく過程で生まれる夾雑物(余計な物質)が体に害を与える可能性も否定できない、と指摘する。そのうえで次のように話す。
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