中国「違法ワクチン」、幼児の体に起きた悲劇 人命軽視、ずさんすぎる薬品行政の実態
「局所の発赤(ほっせき)とかアレルギーはありうると思いますが、神経毒になるようなものとか、全身のショックを引き起こすとかいうことが、本当に起こるかというと、そこは疑わしいですね」
――疑わしいとは?
「そこまで起こすような成分がそもそも入っていないからです。いくらタンパク質が壊れたとしても、そこまで(激しい反応)は起こさないと思います」
つまり、強烈な副反応や中毒は考えにくいというのだ。しかし、そのようなワクチンが人体に使われる状況はそもそも想定されていない。ワクチンの安全性に対する検査にしても、適切に管理された状態を前提に行われているという。同教授はこうした点を挙げたうえで「メカニズムや理論よりも、結局は現場だ」と調査の必要性を指摘する。
「現場で患者さんに本当に健康被害があったのか、それを医師が判定して臨床的な症状として現れているかどうかをしっかり調査することこそが重要です」
中国では過去にも、同様の事件が…
中国のワクチンについて調べていくと、7年前の2010年、内陸部の山西省でやはり冷蔵保存しないワクチンが流通したことがあった。「山東違法ワクチン事件」とまったく同じような事態である。
その事態を明らかにしたのは中国の新聞報道だった。原因不明の死者や健康被害が発生し、それが高温に晒されたワクチンと関連があるのでは、という疑惑を暴露したのだ。山西省からワクチンの納入や管理を請け負った業者が、コストを下げるため冷蔵管理を怠ったという。この業者は省の衛生部門と癒着していた。
実はこの疑惑を新聞に告発したのは、省の衛生部門内部にいた人物であった。その人物とは、当時、山西省疾病コントロールセンターの情報課長だった陳涛安氏(55歳)だ。本人に連絡を取ると、取材を快諾してくれた。しかし、内部告発した当人だけに監視の目が厳しい。自宅で会うのは危険というので、ホテルの部屋で落ち合った。ちなみに陳氏は、この告発の制裁なのだろう、今は医療廃棄物の処理員に格下げされてしまったという。
その陳氏は、パンパンに膨らんだ買い物用のキャリーカートを引いて現れた。中には、口をひもで止めるタイプの書類用の茶封筒がぎっしり詰まっていた。私も手伝って分厚い茶封筒を取り出したが、ホテルの部屋の備え付けのテーブルはすぐにいっぱいになった。封筒の乾いてごわついた感触が年季を物語っていた。
「このひとつひとつが、悲惨な家庭のストーリーです」
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