中国「違法ワクチン」、幼児の体に起きた悲劇 人命軽視、ずさんすぎる薬品行政の実態
龐の顧客には地方の衛生当局や病院も含まれていた。これまでに明らかになったところでは、龐のワクチンの仕入先の企業など291人が起訴され、公務員174人が職務怠慢や汚職などで処分されている。大スキャンダルだった。
事件が報じられてから4日後の3月24日には、警察と衛生部門が首都北京で合同記者会見を開いた。この場で、国家食品薬品監督管理総局の幹部、李国慶司長が、「短期間であれば冷蔵保存を外れてもワクチンの安全性に問題はない」と断言した。
本当に「安全性に問題はない」のか?
それに先立ち22日には、WHO(世界保健機関)の中国事務所も「ワクチンは適切に保管されなかったとしても、中毒症状を起こすことはほとんどない。したがって今回の事件の安全上のリスクは極小である」というリリースを発表している。この手際のよさは、事件の公表にあたり国民の不安を打ち消す十分な準備をしていたと見るべきだろう。
「安全性に問題はない」というのは本当だろうか?というのが率直な感想だった。そこで取材を進めると中国のずさんな薬品行政が浮かび上がったのだ。
事件が最初に報じられてから半年が過ぎた昨年9月、私は山東省の済南市に向かった。山東省の中心都市の1つであり、龐が拠点していた都市である。目指したのは古い工場の跡地。バス通りに面した大きな門をくぐって敷地の中に入ると雑草の合間に建物が閑散と並び、所々に木材やスクーターなどが放置されている。
人もまばらである。慣れない大学の学園祭に行き、クラブハウスエリアに迷い込んでしまったときのような光景だ。広大な敷地に似たような建物が並んでいて途方に暮れたが、空に平行に走る2本の電線を何とか探し当てることができた。それは中国メディアに載った写真がとらえていた目印だった。
その目印で特定できた建物は、レンガ造りの古い平屋だった。窓枠にはホコリが積もり、ガラスは中をうかがえないほど汚れていた。ドアの上の壁の部分には、電気のコードが無秩序に走っており、その何本かがつながっている監視カメラだけは新品だった。
そこが、龐がワクチンの保管に使っていた貸し倉庫だった。もちろん外観だけでは判断できないが、「生モノ」であるワクチンを保管するには粗末に思えた。ニュースが流した捜索の映像では、ワクチンの箱はこの倉庫の床に直接積まれていたように見えた。
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