韓国のカップルも不妊に悩んでる 「家」を継ぐ意識は薄らぐが、「不妊」がプレッシャーに

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ES細胞研究の不正が不妊治療にも強い影響

韓国では不妊治療に関し、国民的な議論が巻き起こったことがある。2004年に体細胞由来のヒトクローン胚からの胚性幹細胞(ES細胞)作成に世界で初めて成功したと大きな話題を呼んだが、後にその論文中のデータが捏造されたことがわかった「黄禹錫(ファンウソク)教授捏造事件」がきっかけだ。

この事件では、韓国国内でのヒト卵子売買や人工授精手術の不正・不透明さ、代理母やその仲介者の存在が明らかになり、大きな衝撃を社会に与えた。事件で問われたのはデータの捏造と研究で利用された卵子の提供方法だが、論文の共著者が産婦人科医だったこともあり、生殖補助医療のあり方も議論された。

韓国では03年、「生命倫理法」(生命倫理および安全に関する法律)が国会で採択、05年に施行された。この法律は「人胚の作成と研究利用について、認められる条件と公的な管理体制を整備するもの」(洪氏)だ。体外受精胚の作成や研究利用、遺伝子関連の検査や治療などについて国と実施機関での管理体制を詳細に規定した、アジア初の包括的な生命倫理立法だった。だが、施行直後に黄教授の事件が起きたため、法の見直しが行われた。

同法はその後も数回改正され、現在は体外受精で作成された配偶子の管理については規制しているものの、生殖補助医療についての詳細な規定はない。ただ、日本の厚生労働省に当たる保健福祉部が、この法律に基づき生殖補助医療を行う医療機関を管理し、毎年施術や配偶子、およびヒト胚の保管状況を報告するよう規定されている。

保健福祉部によると、10年のヒト胚作成数は約20万件、妊娠目的利用数は8万弱。凍結保管数も約4・3万件となっている。一方、同年の配偶者の配偶子を使用した体外受精件数は4万2395件、うち顕微授精件数は2万1336件となっている。

不妊の究極的解消法として、「代理懐胎」の問題も韓国には存在する。かつて李朝中期から日本による植民地支配前まで、「シバジ」という風習があった。これは、家の跡継ぎとなる男子を得るために、子どもを産むための女性を雇うことで、代理母に近い存在だった。

代理懐胎を規制する法律もなく、「不妊カップルにとって最後の手段」(洪氏)とされ、水面下では行われているようだ。特に中国の朝鮮族やベトナム人が代理母契約を結んで出産するケースも多く、後に親子関係などの養育権について裁判も起きている。

今年6月、韓国の人口が5000万人を突破したが、これは海外移住者の増加が少子化を補ったためだ。出生率も日本より低く、少子化対策の一つとしての不妊治療改善という課題は、国家的レベルで今後も続きそうだ。

週刊東洋経済編集部
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