私は2011年にコマツが本社機能の地方分散を進めていると初めて知ったとき、少子化を緩和していくためには、かつ、地方の衰退を止めていくためには、コマツの取り組みに多くの大企業が追随する必要があるだろうと直感することができました。それ以降、コマツの取り組みがほかの大企業にも波及することを願い、自らの連載や講演会、拙書などでも取り上げながら応援してきたつもりです。しかしながら、今に至っても本社機能を地方に分散するという動きは、トヨタ自動車やアクサ生命など、わずかな大企業でしか行われていないという厳しい現状があります。
私はこういったコマツの取り組みがなぜ注目されないのかというと、大企業や中央官庁、大メディアなどに東京一極集中の恩恵を受けている人たちが多いからではないかと思っています。たとえ現状を変えるためには何をしたらいいのかがわかっていたとしても、この国を引っ張っている彼らが行動に移さなければ、少子化対策や地方創生といった懸案がなかなか国民目線の話に向かっていくことはありません。
大企業の会長、社長、顧問といった方々から今までお伺いしてきたのは、大企業に勤める女性の30代までの結婚率はおおむね50%台と、あまりに低すぎるという事実です。東京が地方から若い女性を過剰に吸収しているというのに、東京の女性の結婚率が低いとあっては出生率が上がるわけがないのです。
大企業の本社機能の地方分散+地方大学の振興がカギ
私のかねての持論は、「大企業の本社機能の分散」は「地方大学の振興」と組み合わせてこそ、いっそうの効果が発揮できるだろうというものです。まずは「大企業の本社機能の分散」については、今こそ東京の経済発展の歴史を巻き戻す時期に来ているのだろうと強く感じています。
地方から生まれた優良企業が1950年代以降、相次いで東京に本社を移すという歴史を歩んできたことによって、東京への過度な一極集中とそれに伴う少子化を加速させてきてしまったからです。国家百年の大計を案じるのであれば、大企業の経営者はいま一度、地方に目を向けた経営や雇用を考えてみるべきではないでしょうか。
確かに、大企業が自らの利益や効率性だけを考えていたら、本社機能の地方分散などはとても決断できない経営判断であります。だからこそ、国と地方自治体が一体となって、何としても少子化を食い止めるという気概を持って、地方移転にチャレンジする大企業を支援する優遇税制など諸々の措置を講じなければならないのです。
それができるようになれば、大企業のほうも地方に興味を持つ機会がいくつも提供されることになるので、そのなかから相乗効果が発揮できる地方自治体とマッチングする可能性が高まっていくのではないでしょうか。その結果として、各々の地方で少子化が徐々に緩和する方向へ進むことは、決して夢物語ではなくなるというわけです。
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