もうひとつの「地方大学の振興」については、現状では大都市圏の大学のほうが就職では有利なので、地方の大学の魅力は低下の一途をたどっているといわざるをえません。少子化で若者の数が減り続けているにもかかわらず、日本の大学数は1988年の490校から2016年には777校にまで増えてしまったので、地方を中心に定員割れを起こしている大学が半数近くもあるほどなのです。
今後は多くの大学が淘汰される時代が到来することは間違いありませんが、そのような厳しい状況下であっても地方自治体は、できるだけ若者が地元に残る選択肢を与えるために、地方の大学の魅力を必死になって高めていかねばならないでしょう。
たとえば、地方自治体が大企業の本社機能を誘致する条件して、大企業が欲する人材を教育する専門職大学や単科大学をつくるというアイデアはいかがでしょうか。言うまでもないですが、地方の財政が厳しいこのご時世に、専門職大学や単科大学をつくるために一からそのすべてを地方の財政で支出するというのはありえないことです。
だから地方自治体は、ハードよりもソフトを重要視するという発想に切り替えて、淘汰により廃校になる大学・高校や不要になる施設などを改修して再活用するという考えを持つようになるべきなのです。採用に直結する専門職大学や単科大学であれば、学生と企業の双方に大きなメリットがあるので、若者がそのまま地元に就職して永住するようになる割合も高まってくるはずです。
いずれにしても、地方自治体には自らの地域の特色や強みを分析したうえで、大企業の誘致と地方大学の振興を組み合わせた施策を進めてもらいたいところです。地方大学の底上げはそれだけを考えていては不十分であって、良質な雇用の確保と併せて考えるようにしなければ中身のないものとなってしまうからです。現に、秋田県の国際教養大学は勉学に励む優秀な学生が多いため、大企業が相次いで秋田まで採用活動に訪れているといいますが、卒業生が地元に就職するという点では、貢献度が必ずしも高くないのです。私の地元にある筑波大学も同じケースであり、卒業生の圧倒的多数が東京の企業に就職していきます。これらの事例などは、せっかく地元に優秀な大学があっても、地元に良質な雇用がなければ意味が薄いという典型例であるといえるでしょう。
このままだと毎年「秋田」や「香川」などが消える事態に
地方に魅力ある大学が生まれれば、地元の学生だけでなく日本全国から優秀な学生がやってきます。地方に良質な雇用が生まれれば、若者が地方に残って働くという選択肢も増えます。その組み合わせこそが、地方における少子化の緩和や経済の活性化にもつながっていくし、ひいては日本全体の人口減少の加速を止めることにもつながっていくのです。このまま何もしないで放っておいたら、この国の将来はとても悲惨な状況になってしまうでしょう。将来の日本が少子化をできるだけ緩和するためには、何としても東京や大都市圏への人口集中を逆回転させるような政策が必要だというわけです。衆議院が解散になり事実上の選挙戦がスタートしましたが、日本の重篤な病に対して本質的な解決策を掲げる政党が出てくるのか、期待して見守りたいと思っています。
仮に出生率が現状の1.44のままで推移するとすれば、40年後の日本では毎年90万人以上の人口が減り続けると試算されています。これは、今の秋田県、香川県、和歌山県といった自治体規模の人口が1年ごとに消滅していくという衝撃的な数字です。
将来の日本は今より重税感が強くなるにもかかわらず、国の財政はますます厳しくなるなかで、地方自治体の破綻が相次ぐような事態になっているでしょう。そのような痛みをできるかぎり回避するためにも、国民全体が明確なコンセンサスを持って、出生率を上げていくという努力を続けていかなければならないのです。そうすることによって、90万人以上減るといわれている数字を、45万人や30万人に縮小させることは十分に可能であるからです。
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