なぜ若者が生まれ育った地元を離れてしまうのかというと、地方の多くが賃金や福利厚生が充実した魅力的な雇用を提供することができていないからです。当然ながら、若者の側にも大都市圏で生活したいという憧憬があるのでしょうが、結局のところ、たいていの地方の学生や親が「大都市圏の大学に進学したほうが就職に有利」という現実を重視している点が大きいのです。将来にわたって安定した雇用が生まれなければ、地方から若者が減っていく流れは変えることができないというわけです。
まさに日本の少子化の原因は、長年にわたって地方の若者が減り続けてきたということにあるといえるでしょう。
少子化緩和には「大企業の本社機能の地方分散」しかない
確かに、私たち自身が年々老いていくわけですから、このままだと高齢化を止めることも緩和することも絶対に不可能なことはわかっています。少子化についても、たとえ奇跡的に20~30代の女性の出生率が現状の1.44から10年以内に2.0へとハネ上がったとしても、その年代の女性の人口がとても少ない状態が続くので、どんなに短くても50年後までは日本の少子化が止まらないこともわかっています。しかしながら、少子化を緩和する実証的な方法はありますので、それを実践しないという選択肢はないはずです。
私は少子化の大きな流れを緩和するためには、「大企業の本社機能の地方への分散」しかないだろうと考えています。だからこそ私たちは、建設機械大手コマツの少子化対策への取り組みに注目するべきなのです。
7月27・28日のコラム「日本が少子高齢化を止める唯一の方法とは?」「『田植え』はこれから不要になるかもしれない」では、建設機械大手コマツの坂根正弘相談役のインタビューを通して、コマツが進めてきた本社機能の地元石川への一部回帰が、少子化対策として見事に効果を上げているという実例を紹介しました。コマツの社内データによれば、石川勤務の30代の女性社員1人当たりの子どもの数が、結婚率も踏まえると東京勤務の女性社員の3.4倍にもなるという結果が出ているのです。石川は物価が東京よりもずっと安いし、子育てもしやすい環境にあるので、これは当然の結果といえるでしょう。
なおかつ意外だったのは、コマツの地元回帰が少子化対策として効果を発揮しているだけでなく、従業員や退職者および協力企業が一体となって、地方の経済発展にも大いに寄与しているということです。初めのうちは、坂根氏自身もコマツの地元回帰は一企業にとどまる話にすぎないと考えていたというのですが、今では地元の行政や学校、銀行、農協などと協力して、地方を盛り上げる副次効果を多岐にわたって生み出すまでになっているというのです。
これは地方創生のお手本ともいえ、ほかの大企業も自社技術と発想力を生かして地方の課題解決に取り組めば、地方は相応の活気を取り戻すことができるということを証明しています。
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