本屋は苦しい、だけど街の本屋を始めるワケ アマゾン全盛時代の「本屋」の生き方<前編>
嶋 :下北沢の南口で「本屋B&B」という書店を2012年にスタートさせました。契約が切れるため、ホームページで引っ越し先を募集したら、結構情報をいただきまして、近所に引っ越せることになって一安心しています。決まるまではずっと胃が痛かったです。
成毛:嶋さんでも、胃が痛くなることがあるんですね。
嶋:僕は1993年に博報堂入社し、主にPR関係の部署におりました。社長の記者会見とか、プレスリリースを出したりです。12年前に、博報堂ケトルという会社をスピンオフして社長をやっています。会社は企業のマーケティング課題をさまざまなコミュニケーションで解決する仕事をしていて、資生堂、トヨタ、ソニーなどのCM、デジタルコンテンツなどを作る仕事をしています。同時に本に関する仕事もしていて、90年代から集英社や講談社の雑誌の創刊キャンペーンを手がけたり、15年前にできた「本屋大賞」の立ち上げメンバーで、今も理事をやっています。
8年前に『ブルータス』の取材で、個性派本屋を回って記事を書きました。そこで経営が厳しいという声を多く聞きました。僕はマゾなんで、本当かなと思って。自分の生活の動線に本屋があるのはすばらしいですよね。買い物や、待ち合わせの途中で本を買ったり。ビジネス的に21世紀に自走できる書店はできないかという挑戦でB&Bを作りました。大手出版社の人から「今どき本屋なんか作ったって儲からないよ」と言われましたが……。その人たちはデスノートに名前を書き込んでます(笑)。
本屋は共産主義的なビジネスモデル
本屋は小売り流通としては共産主義的なビジネスモデルです。売値も仕入れ値も全部決まっていて、高く売ろうとか安く仕入れようという融通が利きません。しかも、1000円の本の取り分は22%しかない。飲食店の粗利の半分以下です。高度成長期ならばいいけれど、今の時代には正直成り立たない。だから街の本屋で何ができるかと考えて、ブックス&ビアにしたんです。
内沼晋太郎君というブックコーディネーターと共同経営をしておりますが、この本屋のいちばんの特徴は、アホみたいに毎日文芸作家、ノンフィクション作家、編集者を呼んでイベントをしていることです。土日は2回やるので、365日に500回やっています。本屋でのトークショーは出版社持ち出しでやっているケースが多いですが、うちは自分たちの主催で、出てくれる方にわずかですがファイトマネーを支払っています。それが2万円で、10人以上のお客さんが来てくれてようやく回収できます。今、平均すると30~40人は来てくれるので、なんとか黒字経営を6年続けられています。