深謀?無謀?赤字上場ベンチャーの見極め方 マネーフォワードの上場が注目されるワケ

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尾原:僕がマネーフォワードについて注目しているのは、法人向けの会計ソフトという性質上、一度獲得した顧客が簡単には流出しないというところです。ほかに乗り換えるのを躊躇するスイッチングバリアがあるから。だから一度浸透してしまえば、市場を長くドミナントできる。もちろん技術動向や規制の大きな変化で優位性が損なわれることはあるけれど。

弥生っていう、小さい企業や個人事業主向けの会計ソフトをやっている企業があるじゃないですか。マネーフォワードにとってはライバルの1つになる企業です。弥生はもともと、パソコンにインストールして使う旧来型の会計ソフトを長くやってきたのですが、実は今の売上高の半分ぐらいが保守サービスで、そこに税務相談(注:事業名は「業務相談サービス」)が含まれています。

シバタ:へえ、そうなんですね。

尾原:ユーザーから年額で相談を受け付け、公認会計士・税理士につないでいるのですが、要は全国にいる公認会計士・税理士のネットワークという経営資源を生かしているわけです。弥生はソフトの会社であると同時に、会計士というプロフェッショナル人材をオーガナイズするコミュニケーション型のビジネスも行っている。

シバタ:会計ソフトを入り口にした一連のサービスの上で、ネットワーク外部性の効果が発揮できる。ネットワーク外部性というのは、ユーザーが増えるほどそのサービスがどんどんよくなり、ユーザーが離れにくくなることです。これが見込めるビジネスモデルには、先行投資して踏み込む価値がある、というのがネット企業やそこに投資するVCの考え方です。

あらゆるビジネスがサービス化していく

シバタナオキ/元・楽天執行役員、東京大学工学系研究科助教、米スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。スタートアップ企業を経営する傍ら、「決算が読めるようになるノート」をnoteで連載中。経営者やビジネスパーソン、技術者などに向けて決算分析の独自ノウハウを伝授している。近著に『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』。

シバタ:改めてですが、なぜマネーフォワードのIPOをあえて取り上げて考える必要があるのか。それは、この会社が会計ソフトをネットサービスに変えようとしているのと同様に、世の中のありとあらゆるビジネスがネットサービスに変わる可能性があるからです。

マネーフォワードが売りにしている機能そのものは、弥生とそんなに変わらない。でもそれをオンラインで売ると、顧客にとっての価値は大きく変わる。こういう変化が会計だけでなく、これから3~5年であらゆる分野で起こる可能性があると僕は思います。

そこで登場する企業はどれもマネーフォワード同様、最初は赤字に陥るはずです。それを健全な赤字と評価するのか、投資回収が不可能なビジネスモデルだと見るのか。そういう判断をありとあらゆる産業にいる人ができないといけなくなる。

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