ニトリが沈むアパレルにあえて参入する意味 既存のアパレルは今後異業種に席巻される?

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一方で、多くのアパレル企業は、顧客が「どういう体験を求めているのか」を読み取り、実行へと移していくことに慣れていません。売り上げが下降線をたどりはじめてもなお、「セールで売れば買うでしょ」という怠慢がありました。最近になってようやく顧客インサイトを意識するようになったものの、付け焼き刃の施策では顧客の心を動かせません。

そうした中でアパレル業界へと参入したライザップとニトリはというと、共に、ワクワクする体験を提供している企業です。ライザップは「健康的にやせることができる 」という体験をPRすることで他のトレーニングジムと差別化を図り、 ニトリは「お、ねだん以上。」というキャッチコピーに表れているように、価格以上の品質を得られることを明確な言葉で顧客に伝え、新商品を毎年開発しています。

こうしたブランディングのうまさに加えて、両社共これだけの知名度を誇っているのは、PRしている内容がただの喧伝ではなく、そこに本質が伴われているからこそ。ワクワクする体験と本質的な価値をセットで提供できる企業は、どんな業種であっても顧客を引き付けるのです。

この2社がアパレル業界に参入したのは、他社が提供できていない体験や価値を顧客にもたらせると確信しているからだと思います。表向きは異業種への参入ではありますが、ビジネスとしての具現化のアプローチが違うだけであり、 家具であってもトレーニングであっても服であっても、「顧客対する素敵な生活体験の提案」という根っこにあるものは変わらないのでしょう。

異業種参入を支える強力なパートナー

この2社の異業種参入を後押しするのは、強力なパートナーです。ライザップは今年に入ってからジーンズメイトと堀田丸正を買収し、傘下企業のうち8社がアパレル関連会社に。ニトリは素材メーカーの帝人とタッグを組むことで、事業を行っていくうえで不足している部分を補完し、展開のスピードを速めています。ニトリと帝人は、これまでも布団カバーやランドセルといった商品を共同開発してきましたが、洋服という分野ではどのような化学反応を生み出すのか、注目したいところです。

安く買おうと思えばいくらでも値段に妥協できる現代において、もはや服は必需品としてとらえられていません。精神的な欲求を満たすために存在していると言っても過言ではないでしょう。自信なのか、満足感なのか、美しさなのか、自己実現なのか、自己顕示なのか。顧客のインサイトにはさまざまな欲求が渦巻いています。

ニトリやライザップに続いてアパレル業界に参入する企業は、今後も増えていくはずです。異業種からやってきた企業がマーケットを席巻し、これまでのアパレル業界という概念すらあいまいになっていく可能性もありえない話とは限りません。過去の栄華を捨て、顧客のニーズやインサイトを読み取ろうとする姿勢を取ること。それこそが、アパレル業界の企業が生き残っていくために歩むべき道なのです。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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