ロヒンギャ問題、スーチー氏批判は筋違いだ 国際的な批判は状況を悪化させかねない
仮にティンチョー大統領が前面に出てきたところで、あくまでスーチー国家顧問の代理という立場にすぎず、40万人の難民帰還に後ろ向きでロヒンギャを治安監視対象としてしか見ない軍を制御する力はまったく期待できない。スーチー国家顧問が姿を消せば、ミャンマーでは政治全般への軍の影響力がいっそう強まり、ロヒンギャにとって状況はさらに悪化するだけである。
また、スーチー国家顧問を支持する世論は、同時に反ロヒンギャでもあるため、そこにねじれ現象が起きて、軍と共にロヒンギャ排斥に立ちながら、スーチー国家顧問を辞任に追い込んだ国際社会に対する反発を強める可能性が高い。そうなると、この国が2011年以降歩んできた開放化への道を逆転させてしまいかねない。国際社会はこうしたことを冷静に理解する必要がある。
スーチー国家顧問肝いりの委員会
実は、スーチー国家顧問はロヒンギャ問題の前向きな解決につながりうる戦略を持っている。それは今回の襲撃事件が発生する前日、8月24日に発表されたコフィ・アナン元国連事務総長が委員長を務める「ラカイン問題検討諮問委員会」による答申を生かすという方法である。
この諮問委員会は、昨年8月にスーチー国家顧問の肝いりで結成され、9人の委員のうち3人が外国人、ロヒンギャは含まないがムスリム2名が含まれるというメンバー構成だった。その委員会が1年間にわたるラカインとバングラデシュ双方での長期調査を経て、次のような前向きの答申を示したのである。
ひとつは、土着民族として認められていないロヒンギャに関し、三世代以上ミャンマー国内で居住している場合は国籍を付与すべきであるという進言である。もうひとつは、1982年に改正施行されたミャンマー国籍法の再検討を促すということである。
同法では国籍を3分類し、土着民族(全135)には自動的に「正規国民」の地位を付与するのに対し、インド系や中国系住民らを19世紀前半の第一次英緬戦争以降に入ってきた移民とみなし、彼らに「準国民」や「帰化国民」としての地位しか与えない仕組みになっている。この不平等な法律の再検討を諮問委員会は提言した。
注目すべきは、この提言はスーチー国家顧問が以前から望んでいた内容だったことである。まだ彼女が一下院議員だった2012年、インドを外遊した際の記者会見で同じ内容を語っており、また2013年4月に来日した際も、東京の人権団体代表らが参加した会議で同じことを語っている。
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