ロヒンギャ問題、スーチー氏批判は筋違いだ 国際的な批判は状況を悪化させかねない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

彼女としては、自分が先走ってこの見解を軍や国民に語っても説得は難しいと考え、アナン委員長に象徴される「国際社会の眼」もいれた第三者委員会に調査してもらい、同内容の見解を示してもらうことによって、現状の打破を狙ったものと考えられる。無論、この内容を軍や世論が受け入れるには相当な時間と工夫が必要であるが、世論を軟化させる材料とはなりえる可能性がある。

残念ながら、この前向きの答申が出された翌日未明、襲撃事件は発生した。これにより軍との協調の下、事件をテロリストによるものと断言せざるを得なくなった彼女は、アナン委員長のせっかくの提言が吹き飛んでしまうリスクを背負うことになった。しかし、彼女にとってこの提言は現段階でも大きな希望の灯であることに間違はない。

国際社会がとるべき2つの道

以上から、国際社会がとるべき道は2つに絞られる。ひとつは40万人近くにのぼる難民の保護に一致してあたることである。そこにバングラデシュ政府はもちろんのこと、ミャンマー政府も責任もって絡ませる必要がある。

ミャンマー政府は軍部を中心にこの事件をテロリズムによる主権侵害としてのみとらえる傾向があるが、それはそれとして、難民のこれ以上の流出防止と、流出難民への物質的・精神的保護にきちんと関わらせるべきだ。また、できるだけ早い段階で、帰還に向けた交渉に加わるよう促す必要がある。

もうひとつは、中長期的にアナン諮問委員会の提言を生かす方向でミャンマー政府がロヒンギャへの国籍付与に向けた政策をとることができるよう、国際社会としてスーチー国家顧問をバックアップすることである。国際社会が冷静さを取り戻し、この問題の本質的かつ現実的な解決に向けて何が必要なのかを考えれば、同顧問に対する非難のオンパレードをやめるべきことは明白だといえよう。

最後に在日ロヒンギャ人の声を紹介しておく。9月初旬の都心でデモをしたロヒンギャの一男性がテレビカメラに向かってしゃべったひとことである。

「私たちはいまでもアウンサンスーチー国家顧問を信頼しています」

ロヒンギャから信頼されているスーチー国家顧問を、国家顧問から辞任させるようなことがあってはならない。

根本 敬 上智大学総合グローバル学部教授、ビルマ研究家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ねもとけい / Kei Nemoto

1957年生まれ。ビルマ近現代史を専門とし、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授などを経て、上智大学総合グローバル学部教授。著書に「抵抗と協力のはざま――近代ビルマ史のなかのイギリスと日本」(岩波書店 2010年)、「物語 ビルマの歴史-王朝時代から現代まで」(中公新書 2014年)、「アウンサンスーチーのビルマ―民主化と国民和解への道」(岩波書店 2015年)など多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事