ロヒンギャ問題、スーチー氏批判は筋違いだ 国際的な批判は状況を悪化させかねない
ロヒンギャ問題の核心はこの3つの領域と直接関わるため、彼女は自らの指揮権を用いてこの問題を解決に向かわせる法的権限を持っていない。もちろんそれでも、軍に意見は言える。彼女がそれをしているように映らないのは、そこに憲法改正に向けた彼女の長期的戦略が隠されているからである。
さまざまな軍の権限を認めた現行憲法は、かつて軍政期に15年もかけて準備されたものである。同憲法の改正のハードルは高く、上下両院議員の75%+1名以上の賛成がなければ発議できない。両院とも議席の25%が軍人に割り当てられているため、与党の国民民主連盟(NLD)は過半数という数の力だけでは改憲発議ができない。
軍は護憲にこだわり、改憲論議を拒否する。そのためスーチー国家顧問としては、軍に憲法改正の必要性と意義を納得させるために敵対を避け、信頼関係を深めていかざるを得ない。ロヒンギャを不法移民集団とみなし、今回の難民問題についても治安問題としてしか受け止めない頑なな軍に対し、彼女が強く意見を言えないのはそのせいである。
立ちはだかる多数派世論の壁
軍の頑固な姿勢だけにとどまらない。彼女はまた、反ロヒンギャに立つ多数派世論の壁も意識せざるを得ない。軍だけが壁であるならば、改憲が遠ざかるリスクを承知で国内世論に訴え、国際社会の声に迎合する態度を表明できたかもしれない。
しかし、上座仏教徒が9割近くを占める国家において、「仏教徒でビルマ語を母語とする人々だけが真のビルマ国民である」と考える排他的ナショナリズムに影響を受けた人々に対し、ロヒンギャ問題を冷静に語って理解させることは、短時間ではきわめて困難である。彼女が「この問題は歴史的に根が深く、発足一年半の政権にすぐに解決できるようなことではありません」と語ったことは、正しい現実理解として受け止めるべきである。
国際社会が仮に「何もしない」「何もできない」とスーチー国家顧問の責任を追及し、彼女を辞任に追い込んだとしたら、そのあとに何が生じるだろうか。
考えてほしいのは、彼女以外に国家顧問職(=彼女のために特別設置されたポスト)を継げる人物がミャンマーにはいないという事実である。国民のスーチー支持は非常に強く、そのかわりになれる人は見当たらない。
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