高等教育無償化は、一体何を目的に行うのか 「院卒不足」と「過剰教育」のジレンマ

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日本は理工系よりも人文社会科学系の修士号・博士号取得者の数が少ないことも特徴である。日本の人文社会科学系の学士号取得者の数(人口当たり)は米国の69.5%だが、修士号取得者は10.6%、博士号取得者は18.4%にとどまる。

人文社会科学系の修士号・博士号取得者の卒業後の進路については、理工系よりも一段と厳しい。進路が「不明」の割合は、人文社会科学系・修士号取得者が4.1%、博士号取得者が15.1%と、大きな数字である(2016年調査)。

学位取得後の進路に対する不安が大きければ、目先の学費が無償化されても進学意欲はそれほど強くならないだろう。

この点に関して、文部科学省は2018年度から、若手や女性の研究者を積極的に雇用する大学の支援に乗り出すという(8月23日付、日本経済新聞夕刊)。

減っていく大学内のポスト

「国立大学では法人化を機に国からの運営費交付金が減り、人件費の圧縮もあって若手が大学内のポストに就きにくくなった」「博士号を取得しても安定したポストに就くのは事実上難しく、博士課程に進学する学生は2003年度をピークに減少傾向が続く」という。このような議論が授業料の無償化に先行して行われるべきだろう。

もっとも、その間にも少子化による学生の減少が続くため、対策を行っても大学内のポストはそれほど増えない可能性が高い。民間企業における「新卒一括採用」のシステムが、絶対数の少ない博士号取得者などには情報格差の面などから不利に働いている面もある。これらの問題が残るうちは「院卒不足」の状況は継続し、高等教育の拡大も限定されるだろう。

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