高等教育無償化は、一体何を目的に行うのか 「院卒不足」と「過剰教育」のジレンマ

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大学や大学院の授業料が無償化されれば、修士号や博士号の取得数増加にもプラスの面はあるだろう。しかし、筆者(理学修士)の経験によると、大学院進学を阻む要因として大きいのは目の前の学費や学生ローンの返済よりも、学位取得後の進路の問題であるように思われる。

博士号取得を視野に入れる学部生や修士課程の学生の間ではよく知られた話(少なくとも10年くらい前にはよく知られていた話)がある。それは世界全体の人口を100人の村に例えて世界の貧富の格差などを説明した『世界がもし100人の村だったら』(2001)という本のパロディである「世界がもし100人の博士だったら」。

日本の博士号取得者の進路を100人に縮約すると、16人は医者、14人は大学教員、20人はポスドク(Postdoctoral researcherの略。博士号取得後の研究員で、有期雇用が多い)、19人は会社員、7人はほかの何らかの分野に転出、16人は無職で、8人は行方不明になるという。博士号取得後に無職や行方不明が多いというこの話を信じて修士や博士の学位取得に二の足を踏む学生も多かった。

実際には理工系博士のうち4人が「不明」

大学院への進学率が高い理工系学生の卒業後の進路を実際に比較すると、さすがに16%が無職で8%は行方不明というわけではないものの、理工系・博士号取得者の進路のうち、「不明」(死亡・不詳の者)の割合が2016年調査では4.3%で、理工系・学士号取得者の同0.4%や、理工系・修士号取得者の同0.5%を大きく上回った。

なお、「その他」の中には調査時点で進路が決まっていない者が多く含まれる。アカデミックなポストの公募は通年で行われているケースが多いため、博士号取得者は「その他」の割合が多くなりやすい(「科学技術指標2017」より)という面もあるが、研究職に応募しても採用されず、そのまま進路が決まらない者(最終的には「不明」に含まれる学生)もいるだろう。

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