新潮社の中瀬氏、「好き」を原動力にするワザ 「苦手」ではなく、「食わず嫌い」なだけかも

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「ところが、ガチャッと会議室の扉を開けると、2人の男性面接官がふわーっという笑顔で迎えてくださったんです。そのとき、『ここは、なんて感じのいい、すてきな会社なんだ』と思い、ホッとして気持ちがほどけていくのがわかりました。(面接なのに)なんだか本当に不思議と居心地がよかったのを覚えています」

新潮社と中瀬さんはお互い背伸びしたり取りつくろったりして自分を偽ることなく、等身大で向き合った。

「2次面接までは、好きな本や好きな作家を聞かれたり、その作品のどこが好きかを聞かれたり、文芸出版社らしい質問をされた記憶があります。ところが、3次面接、役員面接になると、急に『今朝は何を食べてきたの?』『君は和歌山出身だそうだけれど、どんな町なの?』という子どもに聞くような質問ばっかりで、本のことはいっさい聞かれなかったんですよね(笑)」

結婚するには、何より相性が重要だ。複数回にわたる「面接」という名のお見合いを経て、中瀬さんはついに意中の相手、新潮社との恋愛を成就させた。

念願かなって新潮社に入った中瀬さんは、現在の所属部署でもある出版部に配属。そこでは、田辺聖子さん、北杜夫さんといった大物作家や、駆け出しの頃の群ようこさんと出会い、ずっとあこがれていた「小説をつくる」という仕事に携わることができた。いわば、バラ色の新婚生活である。

しかし、酸いも甘いも、両方あるのが結婚生活というものだ。共同生活が始まれば、相手の大好きな部分以外とも向き合わなければならなくなる。初任配属から2年が経った頃、中瀬さんが「これから私は、こういう本を作る仕事をやっていくんだ」と思っていたところに、苦手意識のあった純文学を扱う雑誌『新潮』の編集部へ異動を命ぜられる。

苦手意識のある分野に異動になった結果…

「私は入社面接で『推理小説とかエンターテインメントが好きで、純文学は苦手です』って言ったんです。そのとき『新潮』編集長が面接官だったんですけど(笑)。『純文学は、眠くなるような小説もあって……』みたいな話をしたら、ムッとされたのを覚えています(笑)。その純文学を担当することになって、最初は『えーっ!』と思っていました」

中瀬さんは自分が苦手だと思っている仕事を、思い切って口に運び、味見してみた。すると……

「やってみたら、すぐ『純文学って、なんて深くて面白い世界なんだろう』とハマってしまいました(笑)。気がつけば、『(作品の)この文末は“のだ”なのか、“だ”なのか』みたいな細かい表現をめぐって、侃々諤々(かんかんがくがく)何時間も議論するようになっていました(笑)」

その後、中瀬さんが最も縁遠い世界だと思っていた『新潮45』の編集部に移ることになったときも同じだった。

「『いや、もう、純文学が大好きで新潮を愛しているし、代わりたくない』と言って、泣いて反対しました。『新潮45』は政治とか経済とかスポーツとか芸能とか、いろんなテーマを扱うけれど、『私は文芸一筋で来ているので、政治も経済もスポーツも全然知らないし、絶対無理だって言ったんです。ところが、半年もしないうちに『何これ、めっちゃ楽しいやん!』『新潮45、命!』となっていました(笑)」

会社と個人が円満な関係を維持する秘訣は、食わず嫌いしないことだ。中瀬さんは苦手意識がある仕事でも、とにかくまず一口かじってみることで未体験の感動を味わい、自分の意外な一面に気づく喜びを覚えていった。

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