そんなとき、かつて雑誌『FOCUS』を創刊した大編集長の言葉が、迷える中瀬さんを勇気づけた。「自分が読みたいと思える雑誌を作れば、自分と同じように考える人が何万といるんだ」と。新潮社のイケメン(中瀬さん談)社長も中瀬さんの背中を押した。「この雑誌は中瀬に預けたんだから、お前が好きなように作れ。100%、お前が読みたいものでいいから!」。
「マジか!と。会社が私を放牧してくれた。私、絶賛放牧中! じゃあ、本当に『ゆかり100%』でやらせてもらおうと思って、37歳の中瀬ゆかりが本気で読みたい雑誌を作ることにしました。バリバリキャリアを積みながら欲望もいっぱいある女性に読んでもらおうと思い、岩井志麻子さん、中村うさぎさん、西原理恵子さんたちにお仕事をお願いしました。『もう、こうなったら、好きなことを全部盛りでやらせてもらおう!』ということで、雑誌をガラッと変えました」
去っていく読者もいた。その一方で、女性を中心に「こんなに面白い雑誌、初めて読んだ」「こんな雑誌が読みたかった」という声が寄せられ、新しいファンが生まれた。社長、先輩、後輩……、会社という“パートナー”の愛に支えられ、『新潮45』は中瀬ゆかり流に生まれ変わっていった。
中瀬さんがテレビやラジオなどのメディアに出演するようになったのは、この頃からだ。当時はまだ、「『新潮45編集部です』と言ったら、新潮社の45番目の編集部だと勘違いされ、「ずいぶん、たくさん編集部があるんですねぇ」と言われる状況だった。そこで、編集部員の薦めもあり、自分たちが愛情を込めて作っている雑誌をもっと知ってもらおうと、テレビに出たのがきっかけだった。そして、現在も中瀬さんは、新潮社が作った書籍や雑誌に少しでも興味を持ってもらうために東奔西走している。
最後に、終始コロコロと笑いながら、会社との楽しい思い出を語り続ける中瀬さんに、これまで会社で働いていて、つらいことがなかったかを聞いた。
「嫌な記憶から」忘れていく脳ミソの持ち主
「私、あんまり物事を嫌なふうにとらえないんですよ。しかも、嫌な記憶から消えていく海馬(記憶に関係する脳の機関)の機能を持っていて。さかのぼっていけば、きっと会社にも嫌なことをされているんでしょうけど、まったく記憶に残ってないんですよね。何か宇宙人に手術でもされたのなって思うことがあります(笑)」
以前、「運命を狂わせるほどの恋を、女は忘れられる」という広告のコピーが話題になったことがある。中瀬さんもそのコピーのように、恨み、妬(ねた)み、そねみを残すくらいなら……と、さっさと忘れてしまう。そして、目の前の仕事や人を好きになっていく。
「私は人を幸せにしたいんです。人のことを妬んだり、そねんだり、足を引っ張ったりして、誰かに嫌な思いをさせたくないというのが、私が生きているモチベーションです。長年のパートナーだった白川が亡くなって、トウちゃんに捧げてきたパワーが今は余っているので、もっと人を幸せにしていきたいと思います」
相手を幸せにしたいと思うことで、人から愛され、自分が幸せになれるのだと、中瀬さんは教えてくれたように思う。
あらためて敬意を込めて、中瀬さんにこの言葉を捧げたい。中瀬さんの「好き力」、本当にパネェっす!
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