インドで1億5千万人を導く日本人僧侶の人生

色情因縁「私には黒い血が流れている」

改宗式に集まった仏教徒。理不尽な目に遭ったとき泣き寝入りせず、みんなで抗議できるように、佐々井さんの指導のもと組織や団体を各地で作った(撮影:白石あづさ)

改宗式には3日間で約100万人もの仏教徒や改宗希望者が参加するが、その多くは不可触民と呼ばれる人々だ。半世紀ほど前、数十万人しかいなかった信者が今では約1億5千万人を超えた。その仏教復興の中心的な役割を果たしたのが、1967年、32歳でインドにひとりでやってきた佐々井なのである。

「インド12億人のうち一番下の奴隷カーストにすら入れない不可触民と呼ばれるアウトカーストの人々は約2割おる。3千年間も触れれば穢(けが)れると人間扱いされてこなかった人々だ。学校にも行けず、仕事も選べず、井戸を使うことすら許されない。そんな悲惨な状況だからこそ、人は何かにすがらないと生きていけない。だから自分を差別するヒンドゥー教の神様でもけなげに信じてきたんだ。しかし平等主義の仏教を知ることで彼らは『自分は人間である』と目覚め始めたのです」

色情因縁「私には黒い血が流れてる」

1億5千万人のインド仏教徒を率いる佐々井が生まれたのは、岡山県新見市別所の小さな山村である。父は左官業や炭焼きなどを営んでおり、小さいころから家の仕事をよく手伝い、成績は優秀で反骨心は人一倍、強かった。9歳で終戦を迎えた時、村の大人が戦場での残虐な行為を自慢げに話す様子を聞き「人を苦しませることの何が楽しいのだ」と子ども心に憤りを感じた。

未来の宗教家らしき正義感を持つ一方で、無類の女好きの血に苦しんだ。男性なら誰もが悩んだ経験はあるだろうが、佐々井は「そんなかわいいものではないわ!」と苦笑する。

「同級生でも学校の先生でも女を見ただけで好きになる。触りたい、押し倒したい。けれども、それができないから苦しくてしょうがないわけだ。祖父も父もよそに女がいた。色情因縁、私には黒い血が流れているのです」

青年時代は、思い詰めて酒を飲んで暴れ、金に困って血を売ったり、仲間にそそのかされて悪さを働き牢獄に入れられることもあった。彼女ができれば、勉強も仕事も手につかず、はたから見れば異常なほど執着してしまう。

「もう顔を焼いて誰も振り返らなくなれば、愛欲を卒業できるのか」。出家して僧になろうといくつかの寺を訪ねたが、「大学くらい出ていないと」と一蹴され絶望。死に場所を探して倒れたところを山梨県にある大善寺の井上秀祐住職に拾われ寺男となる。師と仰げる住職に出会えたことで、水を得たように修行に励み、25歳にして高尾山薬王院で住職の兄弟子にあたる山本秀順貫主より得度を受けた。

貫主は誰よりも熱心に学ぶ佐々井をかわいがり、仏教の交換留学生に推薦しタイに送り出した。期待に応えて帰国すれば、これまでの迷走を吹き飛ばす順風満帆な僧侶人生が待っていたはずだったのだが……。

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