インドで1億5千万人を導く日本人僧侶の人生

色情因縁「私には黒い血が流れている」

インドに渡って20年、とっくに滞在ビザは切れている。帰らなかった、というより困っている民衆を見捨てて帰ることができなかったのだ。一歩も引けない問題が山積みで、途中で自分が抜けたらガタガタに崩れてしまうことを知っていた。

「シューレイ・ササイ逮捕!」という新聞各紙の見出しに、民衆は立ち上がった。「今度は自分たちが守る番だ!」と、仏教徒は署名運動に奔走。首相のもとに60万人分の署名が持ち込まれ、ヒンドゥーやキリスト教徒にも応援してくれる人が現れた。そしてついに国籍を取得。数十万の市民が街に繰り出しパレードをして佐々井を祝福した。

剃りたての頭に新しい僧衣を身につけた“新人坊主”たちを前にして、眼光鋭くひとりひとりの顔を見つめる佐々井さん(撮影:白石あづさ)

インドでは全国紙に顔が出る佐々井だが、日本ではほとんど知られてこなかった。ずっと孤軍奮闘してきたのだが、最近、祖国でも支援の輪が広がり始めた。

映像ジャーナリストの小林三旅さんが佐々井を知ったのは、1冊の古い週刊誌だ。「この破天荒な坊さんは何者なのか?」とひとりでカメラを抱えてインドに飛び1か月に及ぶ密着取材を敢行。2004年、『男一代菩薩道』と題した番組が放送されると、深夜番組ながら反響を呼び5回も再放送されたという。

「次の仕事が始まれば、前の仕事など次第に忘れてしまうものですが、佐々井さんの生涯を追い、支援することがライフワークになりました。うまく言えないけど、とにかくおもしろいんですよ。四六時中、人の幸せしか考えていない。今まで坊さんというと葬式くらいにしか会わないし興味もなかったのですが、ああ、これが本当の宗教家なんだと」

最初の放送から10年後、岡山の住職、佐伯隆快さんとともに、佐々井の支援団体「南天会」を立ち上げた。会費を集め活動資金をインドに送ったり、会報『龍族』の発行や会員の交流のほか、最近では体調管理などをする人を日本から派遣している。

佐々井一家が日本でも着々と増え始めた。

そして祖国へ。44年ぶりの帰還

それでも1度くらい帰国して、家族や友人に会いに帰りたいとは思わなかったのだろうか。いくら遠いとはいえ、24時間もあれば着くのだから。

「お坊さんになった瞬間から自分の母も人の母も平等の存在になる。だからインドの坊さんは離縁するか、一生、結婚しない誓いを立てる。出家というのは、家を出ること。日本男児たるもの、目の前に弱っている人がいるのに、どうして帰れようか。礼儀に忠義……私の心にはいつも武士道がある」

そんな義理人情に厚い佐々井が、帰国を決意したのは2009年。実に44年ぶりである。インドでの活動が一段落したタイミングで、日本の支援者や恩人たちが生きている間にお礼が言いたかったのだ。インドよりも豊かで平等な日本へ。ところが、久しぶりに祖国の地を踏んだ佐々井を待っていたのは、「人の匂いがしない」現代日本の空虚感であった。

次ページ1度きりの帰国のつもりだったが…
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