インドで1億5千万人を導く日本人僧侶の人生 色情因縁「私には黒い血が流れている」
「インドの子と比べ、日本の子は覇気がない。大人も顔が沈んでいる。自殺が年間3万人と聞いて驚いたが、いったい祖国はどうなってしまったのか?」
1度きりの帰国のつもりだったが、東日本大震災が起きると、被災地に飛び、お経をあげ人々を勇気づけた。以来、定期的に帰国するようになり、各地で講演会が開催されると、若い人たちもたくさん詰めかけるようになった。
「昔は“駆け込み寺”という言葉どおり、お寺は悩める人の相談所であった。実際、私も寺に助けられ、僧となったんだ。どこかに今も親身になって世話をしてくれる寺もあるだろう。アンベードカル博士のような偉人の伝記をたくさん読んでほしい。何が正しいか、自分の使命とは何か。苦しい時、本は人生の助けになるだろう」
まだまだ死ぬことができん
御年81歳。世間では静かに余生を過ごす年だが、佐々井にそんな老後は訪れそうにない。
「休んでいる暇はないのだが、3年前に1度、意識不明の重体となってな。病院のまわりは何千人もの市民が取り囲んで警察が出る騒ぎだ。ところが、ナグプールの病院にいるはずが、私はなぜか意識の中ではヒマラヤの病院にいたんだ。担当の看護師は顔を見せてくれないが、後ろ姿から美人とわかる。それでこんなことを言うんだ。
『あなたは、今まで頑張ったから極楽に行けます』
『俺は死ぬのか? まだやらねばならないことが3つもあるんだ!』
『生き返ると何倍も苦しいことが起きるから、もう死んだほうが楽でしょう』
『ダメだ、シャバに戻せ!』
すると、スーッと私の身体の中に入ってきた。看護師の格好をしていたが、観音様だったんだな。大変なのは取り囲んでいた市民だ。私の呼吸が止まった時、“ササイが死んだー!”と大泣きしていたら、“生き返ったー!”“えー!?”と。わっはっは! それから州知事の命で救急ヘリが迎えにきて、ボンベイに移送されたんだが……」
龍樹のお告げといい、看護師の観音様といい、常人にはすぐには理解しがたい出来事であるが、佐々井はいたって真顔である。ところで、そのまだ死ねない3つの理由を聞いてみた。
ひとつはアンベードカル博士の平等の精神をもっと世に伝えねばならない。2つ目は悲願であるヒンドゥーからのブッダガヤーの大菩提寺奪還だ。早ければ今年、最高裁判で争うことになる。最後に、龍樹が告げた「南天鉄塔」らしき遺跡が本当に出土したので、その発掘を進めたいのだという。