東芝のメモリ売却交渉、またもや結論先送り WDとの溝埋まらず、経営陣の本気度に疑問も

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中国の独禁法に詳しい神戸大学の川島富士雄教授は、「(半導体で同業の)WDやハイニックスが出資する場合、少数株式の保有であっても中国では審査が長引くリスクがある」と指摘する。

将来時点の出資比率増加や出資への切り替えは、その時点で審査するのが制度上の立て付けではあるが、「転換社債の取得でも、今回の買収時点ですでに株式を取得したものと扱われるおそれがある。融資契約でも将来の株式保有の計画などを約束していたら、介入や審査長期化のリスクとなる」(同)。

医療機器事業売却では公取から厳重注意

東芝が2016年にキヤノンに売却した東芝メディカルシステムズの医療機器(撮影:尾形文繁)

2016年にキヤノンへ東芝メディカルシステムズを売却した際、キヤノンの医療機器事業規模はごくわずかだったにもかかわらず、中国での審査終了に9カ月超かかった。

このときはキヤノンが受け皿会社を使うトリッキーなスキームで、独禁法当局の審査を待たずに東芝は売却代金を受け取った。たが、制度趣旨を逸脱したとして日本の公正取引委員会から両社は厳重な注意を受けた。

「中国でも、結果的に競争制限には当たらないが、未届出実施だったとして行政制裁金を課されている」(川島教授)。

さらに、今年7月には欧州委員会がキヤノンに「承認前に東芝メディカルを買収した疑いがある」として警告を出した。キヤノンには最大で連結売上高の10%という巨額制裁金を課されるリスクがある。

各国の独禁法当局から見れば、東芝には“前科”がある。その審査がスムーズに進むと考える方がおめでたい。

主要銀行などから8月末までというプレッシャーをかけられても、WDに譲歩しなかったのは、東芝がもはや2018年3月末までの独禁法審査クリアは間に合わないと考えているからではないか。実際、8月10日の会見で綱川社長は「独禁法は厳しいものがある」と発言している。

もちろん、いずれかの陣営と9月中に契約締結に至る可能性はある。そうなったとしてもWDやハイニックスが入る陣営では、期限内の独禁法クリアは難しい。では、東芝はどうなるのか。

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