東京五輪、「経済効果」の発揮は簡単ではない

長野五輪はじめ、失敗例には事欠かない事実

2008年の「北京五輪」はどうだったか。当時、五輪の活況の波に乗ろうと「鳥の巣」というメインスタジアムが約340億円で建設され、話題を呼んだ。五輪後は、スポーツの試合やイベントの開催での利用機会はほとんどなく、維持費の大半は観光客の入場料で賄うことになっている。ただし、2010年までは年間450万人程度の入場者数があったものの、その翌年には、半分程度まで減ってしまった。

そして記憶に新しい2016年の「リオ五輪」。約900億円かけて建設した選手村は、大会後は民間住宅として販売される予定だったが、3604戸中たったの6.6%の240戸しか売れず、販売は中断されたという。また、自転車とテニスの会場は、大会後は民間に管理権を譲渡する計画だったが、入札には1社しか参加せず、譲渡は中止された。

いずれも「オリンピックは儲かる」と盲信し、五輪後の世界を冷静に見抜けないままに近視眼的な戦略・投資を行った結果だ。では、日本はどうだろうか。残念ながら、過去にはこれと全く同じことが起きていた。

1998年「長野五輪」のお寒いその後

1998年、合計10個ものメダルを獲得し、日本全土に感動をもたらした「長野五輪」。その当時は活況に沸いた長野。しかし、時が経てば、それも忘れられてしまう。大会後の長野は「負の遺産」との戦いの日々を送ることとなった。

当時、長野市は、長野五輪のための施設建設などに、約1180億円にも上る金額を拠出した。それだけの金額を投じて、豪華で巨大な施設が誕生した。しかし、開催から2年後には、全ての施設が赤字経営に陥った。さまざまな施設活用の施策を試すものの、現在でもその維持運用費がかさんでいる状況だ。

こうした結果になる可能性は、長野五輪による経済効果が叫ばれる中で、全く指摘されていなかったのか。いや、そんなことはない。

長野五輪前年の1997年の9月時点で、外国人報道関係者が利用する「メディア村」の建設によって約7億円の赤字が出ることはすでに報道されていたし、五輪4施設は収入1億1000万円に対して、管理費はそれを大幅に上回る7億3000万円を見込むことも報道されていた。だが、そのまま突き進んでしまった。そして、20年近く経つ今も、その財政的な負担による懐の寒さをずっと味わい続けている。

ここまで見てきたように、五輪という「甘い果実」に惑わされ、近視眼的な視点に陥って失敗した事例は枚挙にいとまがない。だが、唯一、こうした「キリギリス型思考」による失敗に陥らず、将来を見据えて五輪をうまく活用した「アリ型思考」の成功事例がある。

それが、2012年に行われたロンドン五輪である。その五輪の経済効果は総額7兆円だったと言われている。経済効果の多寡に関する考察は他の研究に譲るとして、実は、もっと注目すべきところがある。特に、注目すべき点は次の2点だ。

ひとつは、経済効果約7兆円のうち、「五輪後」の経済効果が約4.1兆円であり、五輪前よりも大きな割合であること。もうひとつは、経済効果の内訳のうち「貿易・対英投資の増加」が約3.5兆円と、およそ半分を占めていることだ。

この注目すべき2点からわかる、成功の要件がある。それは「五輪の先を見据えた成長モデルを構築すること」だ。至極当たり前に聞こえるかもしれないが、この要件が、先述した各国五輪の失敗例では確実に抜けていた。

失敗例において、重視されていたのが何かというと、「五輪の活況時だけを見た投資・商品設計」である。しかし、ロンドン五輪は違った。

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