東京五輪、「経済効果」の発揮は簡単ではない 長野五輪はじめ、失敗例には事欠かない事実

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「五輪」を1つの通過点ととらえていたからだ。「ブリティッシュ・ビジネス・エンバシー」という対英直接投資と英国企業の海外展開を促すPRイベントを開催し、各国の重要人物を囲い込む戦略を採った。五輪を自国全体のマーケティングイベントとして活用したのだ。

五輪を「点」でなく「線」でとらえる発想

ここには、明らかに五輪を「点」ではなく、「線」としてとらえ、長期的な利益を取りに行く狙いを見て取れる。五輪を契機に、イギリスへの積極的な投資を誘致して五輪後も発展できるような市場環境を整備し、五輪後に海外に自社の商品やサービスを展開できるようにする。これこそ、五輪の甘い果実をすぐに取ろうとせず、将来にわたって長く味わおうとする「アリ型思考」である。

この結果、英国では旅行者1人当たりの消費が、五輪前後で7%も向上したそうだ。そして、ロンドンオリンピックによる経済波及効果は2020年までに約14.1兆円まで拡大すると推計されている。当然、この指針に沿って活動を行った企業も、五輪で衰退するどころか、生き残り、発展を遂げていくことは想像ができる。

ロンドン五輪に見る「アリ型思考」を、2020年東京五輪でも持つことができるのか。そして、その思考に基づいた、戦略を立案、実行できるのか。

この視点の差が東京五輪で衰退するか、あるいは、生き残って発展を遂げるかを決めていくと言える。では、具体的にどのような戦略に落とし込んでいけばよいだろうか。「日本を持ち帰る」というテーマで、「種まき→育成→刈り取り」のステップで、アリ型思考に基づいた戦略の一例を考えてみよう。

まず初めの"種まき"は、「顧客訪日前の話題醸成」である。それは、東京五輪にあやかるビジネス展開をするといったような、短絡的なものではない。東京五輪で訪日する顧客そのものに着目し、「日本にはこんな商品があるのか」という関心を事前に獲得することが重要だ。

海外に向けて、訪日したくなる理由や動機付けを事前に仕込んでいくことで、開催時の短期的な効果も期待できる。今や、SNSで世界中の人々とすぐに気軽に繋がることができる。訪日外国人を迎えるうえで、国内インフラの整備も重要ではあるが、その前にまず、アピールしたい商品・サービスを発信しておくのが得策だろう。

次の"育成"は何か。「訪日時の高品質体験の提供」である。興味を持った訪日客に対して、他国では真似できない高品質を目指し、満足度の高い体験やサービスを実際に提供することだ。この体験を通じて、顧客の心に、自社商品・サービスを深く浸透させる。それと同時に、その体験や経験を自国にも「持ち帰らせる」工夫をする。

こうすることで、五輪が終わった後も、顧客の生活の延長に自社商品・サービスが広がっていく。2013年、IOC総会でオリンピック・パラリンピック招致に向けて、日本が伝えた「おもてなし」の精神。我々は、どこまで訪日外国人の心をつかむことができるのか。それが試される。

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