禁煙が全くできない人が知らない3つの依存 体、心、習慣…それぞれ対処法は違う

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3つ目の「心の依存」とは、何でしょうか? 一言でいうと、タバコに対する 「認知のゆがみ」がある状態です。認知のゆがみとは、わかりやすくいうと「考え方のくせ」あるいは 「心のくせ」です。

タバコへの「ゆがんだ認知」を正す

タバコに関する認知のゆがみは、大きく分けて3つあります。1つ目は、タバコの害を実際より小さく考えるくせ。2つ目は、タバコを吸うとストレスやイライラを解消できるなどよいこともあると思うくせ。3つ目は、禁断症状を耐えられないものだと思うくせです。

タバコの害を小さく見積もることは、リスクに対する「喫煙者の非現実的な楽観主義」と呼ばれます。これだけタバコには害があるといわれても自分だけは病気にならない、大丈夫だと思い込むのは非喫煙者には理解ができないのですが、喫煙者にとってみれば、そう考えるのがくせになっているので、なかなか直せないのです。

また、タバコを吸うとストレス解消できるのは事実だと考える人もいるでしょうが、私はそうではないと声を大にして言いたいと思います。タバコは実は、ストレスを減らすどころか、どんどん増やしてしまいます。たしかにタバコを吸えば、禁断症状としてのストレスは解消され、落ち着きます。しかし、それは一時的なもの。ニコチンが切れてしまえばまたストレスがくり返されるようになる、という無限ループに陥ります。

禁断症状も、実はそれほど恐ろしいものではないのですが、以前に禁煙に失敗したことがあるとそのときのことを思い出して大きな恐怖を覚え、とても耐えられないと思い込んでしまうのです。でも、先述したように、「体の依存」は、禁煙外来に通ったり、運動習慣を身につけたりといった適切な対処をすることによって必ず乗り越えることができます。

喫煙したとしてもたいした害はないどころか、タバコはストレスを解消してくれる好ましいものだと思う。逆に、禁煙することがとても恐ろしく、不安に感じるようになる……。こうした認知のゆがみが、どんどん心の依存を強くしていってしまうのです。

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なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?

1つ目は、先述したように、実際にタバコを吸うことで、ニコチンの禁断症状が一時的にとはいえやわらぐので、喫煙はよいものだと錯覚するため。2つ目はタバコ会社の宣伝・広告や喫煙に寛容な社会によって洗脳されるため。3つ目は、人間には「自分を正当化する方向へ考えを変える」という傾向があるため、などが考えられます。

心の依存は恐ろしいことに、禁煙に成功して数カ月から数年たっても、ふと吸いたい気持ちが出現し、再喫煙してしまう人もいるくらい強いものです。ただし、本当に心の依存から抜け出せていたら、そのような場面でも再喫煙をしないですみます。心の依存は手強いものですが、これらの「認知のゆがみ」を直せば、必ず脱却できます。まずは、こうした「認知のゆがみ」があることを理解し、認めるだけでも禁煙成功に近づきます。

川井 治之 岡山済生会総合病院 呼吸器内科診療部長、がん化学療法センター長

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かわい はるゆき / Haruyuki Kawai

がんの予防から発見、退治までを行う呼吸器内科医・腫瘍内科医として医療に従事し、これまで1000人以上の肺がん患者を診るなかで、むなしさと忙しさで一度は燃え尽きそうになったが、禁煙こそが本当に大事なのだと気づく。その後、予防のための禁煙啓発をライフワークと定め、タバコから解放される人を1人でも増やしたいと、多くの人を禁煙に導く。病院勤務のかたわら「禁煙センセイ」として、SNS上でも禁煙啓発や禁煙のアドバイスを行っている。

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