北陸新幹線が結ぶ「近くて遠かった」信越の絆 東京との観光客輸送とは違うもう一つの役割

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整備新幹線の建設促進活動や開業対策は多くの場合、道県庁が主導し、「道」「県」の枠組みで展開される。一方、信越地域の取り組みは、中間組織がかかわりながらも、個々人のつながりや小規模な組織をベースにしたボトムアップ型、かつネットワーク型の異色の活動だ。特段の予算もない中、チラシの印刷費や事務的負担、運営の労力を融通し合い、知恵と力を出し合って、面的な広がりを見せている。ただ、県域を基本単位とする地方メディアの視野には入りづらく、地元でも活動の全容はあまり報じられていない様子だ。

第3回交流会には約100人が参加した=2017年7月(筆者撮影)

今回のシンポジウムで特に印象深かったのは、主催者が十日町市を開催地に選んだことだ。同市は上越・北陸新幹線の狭間ながら、ほくほく線とJR飯山線がクロスし、2つの新幹線の駅と「沿線以外の地域」を結ぶ接点に位置する。北陸新幹線によって生まれた「人のネットワーク」が、新幹線が走らない街で、新幹線に必ずしも直結しない視点から「自らの地域のあり方」を探る……これもまた、大きな「新幹線効果」ではないか。

語られた言葉の数々も、ありがちな「新幹線による誘客や観光施策の充実」というより、「あくまでも地元の住民と社会の視点から、新幹線開業がもたらした環境変化にどう対応し、『新幹線・公共交通つながり』を活用するか」を探っているように感じられた。

「地元の足」への変化も背景に

背景に、ほくほく線が首都圏と北陸地方を結ぶ幹線の座から降りて、沿線市町を結ぶ「地域間交通の主役」となった事情があることも興味深い。特急「はくたか」を失い、内部留保を切り崩しながらの経営へ移行したからこそ、ほくほく線は一層、「地元の足」としての役割を強く意識することになった経緯は、渡邉社長も報告していた。

内海さんは一連の取り組みを「近隣地域での異業種交流と学び合い、創発がもたらす、さまざまな可能性に期待したい。そのために、交流会が地道に続く場になれば」と振り返る。

新幹線の効果・影響は、ともすれば、観光客や乗客の増減だけで語られがちだ。しかし、新幹線は交通網や人々の意識、行動に多面的な変化をもたらし、地域を語る枠組み・ネットワークそのものを進化させうる。信越県境の取り組みは、必ずしも新幹線を活用し切れていない地域や、新幹線建設を待望する地域にとって、「新幹線で何ができるか」について、大きなヒントを提示してくれるかもしれない。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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