北陸新幹線が結ぶ「近くて遠かった」信越の絆 東京との観光客輸送とは違うもう一つの役割

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花が目立ち、風情ある民家が並ぶ十日町の市街地=2017年7月(筆者撮影)

「老舗企業から学ぶ地域資源と地域経営」のセッションでは、日本を代表する着物産地・十日町市の製造・販売の老舗「青柳」の青柳安彦社長が、「十日町の伝統は、絶え間ない革新によって支えられてきた」と指摘した。湯沢町・越後湯沢温泉の第37代「湯守」として源泉を守る「雪国の宿高半」の高橋五輪夫専務は、「次世代のため善をなす『積善余慶(せきぜんのよけい)』が家訓」と明かし、時代を超えて大地に根を張り地域に貢献する意義を訴えた。1890(明治23)年創業のワイナリー「岩の原葡萄園」(上越市)の経営を2014年に継いだ棚橋博史社長は、「苦難を乗り越えられる人を育てることが人づくり」と語った。

また、飯山市の仏壇・祭礼用品造りの有限会社「神仏の鷲森」の鷲森秀樹専務は、伝統工芸と現代的なニーズの融合を目指して、枡形の木製カップ「舛カップ」や、アウトドア用品の製作を手掛けてきた経緯を紹介した。モデレーターを務めた一般財団法人雪国観光圏の代表理事、井口智裕さん(越後湯澤HATAGO井仙代表取締役)は、多雪な環境下、「人」を基軸として、文化の蓄積と革新を重ねてきた地元の営みに、あらためて感銘を受けた様子だった。

従来の枠組みを外し連携構想

県やJRが旗を振る形ではない「交流会」は一見、地味な存在だ。しかし、他の整備新幹線沿線には例を見ない経緯で誕生・成長し、独特の活動形態を採っている。

運営に携わるのは、上越市の市役所内シンクタンク・上越市創造行政研究所、長野県飯山市が事務局を務める信越自然郷(信越9市町村広域観光連携会議)、そして新潟県湯沢町を拠点とし、越後湯沢駅を囲む新潟県・長野県・群馬県の7市町村を活動圏域とする雪国観光圏のメンバーだ。

上越市創造行政研究所の主任研究員・内海巌さんによると、発足の端緒は同研究所の調査活動だった。2000年4月の研究所開設以来、地域課題に関するさまざまな調査研究に取り組んできたが、広域連携の事例調査を行う中で、2014年、愛知大学の三遠南信地域連携研究センターと接点ができた。

同センターは、その名のとおり、愛知県東部(三河地方)と静岡県西部(遠州地方)、長野県南部(南信地方)の連携研究に携わり、文部科学省の共同利用・共同研究拠点事業における「越境地域政策研究拠点」指定も受けていた。上越地方は翌年に北陸新幹線開業を控えており、自治体間の連携や広域観光の将来像を探るうちに「あえて、新幹線の駅勢圏や政治・行政的なつながりをいったん頭から外し、純粋に地域の構造や特色を踏まえた新幹線・在来線の交通ネットワークを活用する枠組みを考えてみた」(内海さん)という。

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