10回転職した男が語る「障害者福祉」の深い闇 利用者への虐待、丸2日寝られないシフト…
ある日、利用者の1人がてんかんの発作を起こして頭を打ち、流血の騒ぎとなった。すると、それを見た理事長は、駆け寄るどころか、面白がってスマホで写真を撮り、ほかの利用者にそれを転送したのだ。あまりのことにあぜんとしたAさんだが、理事長と一部の職員が日常的に利用者への肉体的・精神的虐待を行い、さらには20~21時まで無給で働かせていることも明らかになった。
耐えきれず、Aさんは自治体に対する内部告発を行った。すると、数カ月後に法人内の別施設への異動が告げられた。その施設へ出勤すると、サービス管理責任者からは「あなたは障害者手帳を持っていますか」と質問されたという。そこでAさんが正直に「持っていますよ」と答えたところ、「この施設では、手帳を持っている人は職員として雇えない」と告げられた。加えて、理事長からも「職員ではなく障害者として利用者になれ」と追い詰められたAさんはまたもや退職を選ぶ。
9300万円の補助金返還、施設認定も取り消し
ただ、N社が野放しにされなかったことが不幸中の幸いだった。Aさんの退職と軌を一にして、N社には自治体からの特別監査が入り、補助金の不正請求や虐待の事実が明るみに出た。N社は、障害者向け就労支援のサービスを提供したように見せかけて、複数の自治体に対して巨額の補助金を不正に請求していたのだ。
結局、自治体側は合計およそ9300万円の補助金の返還を求めるとともに、一部財産の差し押さえを強行した。続いて、2016年12月末には障害者施設の認定が取り消された。自治体側は、現在もなお詐欺容疑での刑事告訴を検討している状況だ。
なお、N社の理事長は、2002年にもホームヘルパーなどを養成する学校を運営し、講師の資格を満たさない教員に講座全体の7割近くを担当させていたとして、逮捕された過去を持つ人物である。理事長はこの事件で刑務所に入ったが、出所後にN社の経営者になった。なぜN社は認可されたのか。筆者が自治体に問い合わせたところ、「(理事長の逮捕歴は)施設の認可をするうえで判断基準となる、『障害者総合支援法』の欠格事項に該当するものではなかった」という回答があった。
その後もAさんはさまざまな職を転々としたが、2017年に知人のつてで障害者の就労継続支援をする株式会社(H社)に一般職員として入社した。
ところが、Aさんに突きつけられた労働条件は「年間休日79日」という厳しいものだった。労働基準法に規定された1年間の労働時間の限度は2085時間である。一日8時間よりも短い拘束時間で働く条件であれば、年間休日79日でも違法ではない。しかし、Aさんは毎週、法定勤務時間以上の残業を課された。しかも、その分の手当はない。
この条件で待遇も悪ければ、当然人は集まらない。実際、提供するサービスの管理責任者が雇用できず、責任者としての条件を満たしていない社長の妻が、経歴を詐称して就いていた。また、働いているうちに補助金の不正受給なども明らかになった。
Aさんはまたも自治体に内部告発を行ったうえで、未払いの時間外手当を請求して退職。現在も、転職活動を続けており、社会福祉施設も選択肢の中にあるという。