10回転職した男が語る「障害者福祉」の深い闇 利用者への虐待、丸2日寝られないシフト…
Aさんら職員からの通報後、行政はすぐさまK社へ聞き取り調査に入ったものの、不思議と簡単な指導にとどまり、虐待をした職員らが処分されることもなかった。ただ、Aさんが自治体に通報したことは経営陣に筒抜けになっており、親身になって話を聞いてくれていた自治体の担当部署の職員たちは、年度末のタイミングでメンバーが総入れ替えになった。
「上から、何らかの圧力があったとしか思えない」とAさんは唇をかむ。そして、施設内での犯人捜しが厳しくなった2012年、AさんはK社を去った。
超過酷!月曜日朝から火曜日の夜までの連続勤務
次に就職したのは、知的障害者の地域移行(入所施設から地域生活へ移行すること)を進める社会福祉法人(S社とする)。ここでは、利用者の支援業務に従事することになった。
ところが、就職時に双極性障害があることを伝えていたにもかかわらず、彼に課された勤務シフトはあまりに過酷だった。毎週月曜日の朝から日勤で働いたうえで、夜勤、そのまま続けて火曜日の夜まで日勤で働いた。火曜の夜には帰宅できたが、水曜から金曜までは休みなく日勤が続く。こうした働き方によって、1カ月の労働時間は250時間を超えることもあった。労働基準法の「1カ月単位の変形労働時間制」を敷いていたとしても、70時間以上の超過勤務になる。超過した分の手当など出ない。こうして、ここで働く職員の多くは半年から1年で退職していくのが通例となっていた。
Aさんは、この勤務体制に1年間耐え続けたが、やがて日曜日の夜になると心臓がバクバクし、息苦しくなるといった症状が出るように。双極性障害がさらに悪化していったのだ。
そこで、上司に「夜勤を減らしてほしい」と相談したところ、会社からの回答は「あなたにしてもらう仕事はもうないです」というものだった。退職が頭をよぎったが、住宅ローンの返済があるために、今辞めるわけにはいかなかった。
そこで働き続けることを伝えたところ、正社員からパートに格下げになった。パート勤務となったAさんは、やりたかった支援業務からも外され、午前中は厨房に配置、午後は16時まで事務職という変則的な勤務を命じられることになった。「障害者支援の施設にもかかわらず、障害がある自分へのこの仕打ちはあまりにひどい」――。そう思ったAさんは、最終的に退職を決断することになった。
S社在職中、過酷な日々の中でもAさんは社会福祉士の資格を取得していた。そこで、2014年からは資格が生かせる有料老人ホーム(T社とする)の相談員として働き始めた。
が、ここもAさんの安住の地ではなかった。「高齢者支援は未経験」と伝えたにもかかわらず、何の研修も指導もなく現場に放り込まれ、1カ月経つと「君は相談員として雇えない」と突然告げられた。
そこで再び転職活動を始めることになり、念願の相談員の職にありついたが、転職の回数が多いことを上司にたびたびなじられ、人事担当者に相談した結果、なぜかAさんのほうが退職届を出すことを求められた。
こうしてT社を去ることになったAさんは、2016年にある障害者施設(N社)に雇われた。ここで、Aさんはこれまで経験してきたのとは比べものにならない、地獄のような日々を送ることになる。