10回転職した男が語る「障害者福祉」の深い闇

利用者への虐待、丸2日寝られないシフト…

ここまで、証言に基づいてAさんが働いてきた障害者福祉施設の様子をお伝えしてきた。中には、「転職先がたまたま悪質な施設ばかりだったのではないか」「一方的な見解だ」「すぐに転職してしまうAさんにも問題がある」というご批判もあるだろう。ただ、筆者はAさんの職務遍歴の中に社会福祉業界の闇が凝縮されているように思えてならない。そして、Aさんの置かれた労働環境がことごとく過酷なのは、決して「たまたま」ではないと考えている。

単刀直入に言えば、社会福祉業界全般に、深刻なコンプライアンス上の問題があるのだ。社会福祉のことを第一に考え、まじめに運営する経営者も多く存在するが、いざ不正に手を染めようと思ったら、抜け道はいくらでもある。書類上整っていさえすれば、自治体の監査はスルーできることが珍しくないからだ。Aさんによれば、H社の経営者夫婦も、ことあるごとに「市にはわかんないから」と発言していたという。そして、こうした不正が起こる原因を突き詰めていくと、まともに経営すると事業として儲からない、という点に行き着く。

「経営者はめちゃくちゃでも、現場にはやりがい」

社会福祉業界で働き続けるのはいったいなぜなのだろうか。Aさんはこう語った。

「自分自身が障害のある身なので、同じく障害を持のある人を支援したいという思いはあります。資格を生かせるのもこの業界。経営者がめちゃくちゃでも、現場はやりがいがあって、職員たちの善意にも救われてきました。……加えて、病気があって年齢を重ねてからの転職となると、医療か福祉関係の仕事しかない、という現実もあります」

現在、社会福祉の現場はどこも深刻な人手不足に悩まされている。その原因の1つとして、職員の高い離職率がある。少し古いデータだが、福祉分野の離職率は16.3%で、全産業平均(14.4%)よりも高く、さらに離職者の勤続期間を見ると、6カ月未満が21.1%で、10年以上勤務しての離職はわずか9.3%である(厚生労働省「福祉分野の雇用動向について」2013年)。

職員のやむにやまれぬ事情や善意のうえにあぐらをかき、使い捨てるような社会福祉施設が跋扈(ばっこ)し続けるかぎり、この人手不足が根本的に解決される日は遠いだろう。

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