小島秀夫は世界のエンタメをどう変えるのか クリエイターを取り巻く環境は激変した<下>

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そういうチャンスを、この年齢のクリエイターに与えてくれるなら、簡単には断れない気もします。ドン・キホーテみたいに無謀で滑稽に見えるかもしれないですが、それを成功させるのは、とてもかっこいいことでもある。巨大な風車がぐるぐる回ってぐちゃぐちゃにされて、勝ち目がまったくなさそうなのに戦うジジイって泣けますよね。でも負けたくはないですけど。

小島秀夫(こじま ひでお)/1963年生まれ。1986年コナミにプランナーとして入社。1987年に初監督作品「メタルギア」でデビュー。2001年に米『Newsweek』誌の「未来を切り拓く10人」に選定。2015年12月に同社を退社し、コジマプロダクション設立。ビデオゲーム業界のアカデミー賞といわれる「D.I.C.E. Summit 2016」でHall of Fame、全世界のゲームメディアが選ぶゲームアワード「The Game Awards 2016」でIndustry Icon award受賞(撮影:梅谷秀司)

――小島監督のゲームはグローバルで人気があります。日本市場向けは意識しませんか。

僕は、日本向けとかグローバルとかを考えてゲームや物語を作ったことはありません。子どもの頃から、映画もドラマも小説も、海外のものが好きだったので、そこから得た考え方や体験がしみ付いているのです。日本で育っていながら、フィクションを通して、未知の場所や、知らない人の人生を浴びるように体験してきました。

たとえば日本のアニメの多くは、ティーンエージャーをターゲットにしています。その年代の子供たちは、ちょうど親の存在を疎ましく感じている年頃です。だから親の存在が描かれない。家族と一緒に住んでいる主人公たちが冒険に出掛けて帰ってくると、親が出てきて「あんた、何してたの?」とだけ言って終わる。もちろん主人公は冒険したことで変化するかもしれませんが、親の存在が最初から希薄なので、成長や通過儀礼の物語としては弱いのです。冒険を通しての、家族との関係の変化は描かれません。現実から乖離した夢物語が多いです。

日本のティーンエージャーの夢想を肯定してあげるだけでは、グローバル市場には届かない。あらゆる人種、民族、年齢、ジェンダーの人々に届くためには、普遍的で強固な構造が必要になります。通過儀礼の物語ならば、主人公の成長も含め現実をしっかりと描く。だから海外の映画やドラマには家族がちゃんと描かれますよね。乗り越える対象になる親の世代だけでなく、祖父母や親戚、兄弟との関係まで描きます。どんな家族の元から冒険に出掛け、帰ってくるのか、それによって家族との軋轢を乗り越えて、どんな調和を迎えるのか、という物語でないと受け入れられないと思います。「家族」こそが、人類共通の生存のための単位であり、概念なので、それを描くことが必要だと思います。

人殺しゲームが蔓延する理由

――グローバルで売れる大作ゲームが増えた弊害として、人殺しゲームばかりになりました。

それは少し極端な意見だと思います。ビデオゲームに限らず「ゲーム」というものの根底には「勝ち負け」があります。じゃんけんやトランプ、将棋、競技スポーツに至るまで、勝者と敗者に分かれるのが基本です。オリンピックだって国家レベルで戦うゲームとしての側面があります。それらをデジタルで再現したビデオゲームも同じです。勝負する、敵を倒すということでカタルシスを得る。その結果として「人殺しゲーム」が多くなったという実情には、忸怩(じくじ)たる思いがありますが。

ビデオゲームの初期のものは、テニスゲームや、攻撃してくる宇宙船をただ撃つシューティングでした。これらが登場した頃のコンピュータは、処理能力が低く、単純なアクションしか表現できなかったのです。初期の映画と同じです。無声映画(サイレント)の時代、バスター・キートンやチャールズ・チャップリンは、アクションだけで映画を成立させていました。言葉がなく、アクションだけというシンプルな構造は、言語や民族の壁を超えてグローバルに通用する。これに「競争」や「勝負」というわかりやすい原理が結び付いたのがビデオゲームです。

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