パリはシティに代わる金融センターになるか EU離脱を巡ってイギリスとフランスが暗闘
また、労働者保護の観点から企業に課せられた雇用面での制約は、フランスの労働市場硬直化の象徴とされる。労働組合の発言力が強く、デモなどが頻発。週35時間労働制の見直しも進まない。
「フランスにはグローバル化に対する懐疑的な考え方が底流にある」(吉田氏)のも、パリへの本拠設置を躊躇させる一因だ。そうした見方が顕在化したのが、EU域内への金融取引税導入をめぐる同国の対応である。EU加盟国間で意見が対立し、英国などは反対したが、ドイツとフランスの両国が導入を強硬に主張。フランスは結局、2012年から金融取引課税に踏み切って、現在、キャピタルゲインに対して0.3%を徴収している。
「英国に対する宣戦布告だ」。フランスのメディアはブレグジットの交渉で、EU側の首席交渉官にミシェル・バルニエ氏が選ばれたことをこう受け止めた。同氏はもともとフランスの中道右派の政治家で、ジャック・シラク元大統領時代に外相を歴任。2010~2014年には、EU委員会で域内市場ならびにサービス担当の委員として、シティの猛反対を押し切り、金融規制強化を推し進めた経緯がある。これまでは金融取引税にも肯定的な発言を繰り返している。
これに対し、フランス政府もパリへの金融機関誘致への障害を克服しようと、改革に着手する姿勢を鮮明にしている。「パリの金融センター化へのわが国の野望」と題する英文の資料には、法人税率を現行の33%台から22年までには25%へ引き下げることや、金融取引税について、予定していた拡充を廃止するなどの方針が盛り込まれている。
フランスの解雇規制緩和も進むか
一方、フランスにおける解雇規制緩和への取り組みについては、道半ばだ。労働市場改革は歴代の政権も取り組んできたものの、そのハードルは決して低くない。だが、「エマニュエル・マクロン新大統領の誕生で流れが変わるかもしれない」とのムードが出てきたのも確かである。
マクロン大統領の勝利は「(これまで交代で政権を担ってきた)共和、社会両党、労組など、古い組織に対する批判の高まりの表れ」(フランスの新聞ル・モンドのフィリップ・メスメール記者)。こうした世論の変化が同大統領の労働市場改革を後押しする可能性もある。
足元のフランスの雇用情勢にはわずかながら改善の兆しがみられるのも追い風。フランス国立統計経済研究所(INSEE)によると、2017年1~3月の失業率は9.3%と、2012年1~3月以来の低水準を記録した。政権はこうした環境の好転も味方につけて、イメージの払拭に努めたい考えだ。
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