パリはシティに代わる金融センターになるか EU離脱を巡ってイギリスとフランスが暗闘

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一方で、「『無秩序な離脱』のシナリオもありうる」(同)。となれば、”転ばぬ先の杖”。ロンドンの金融街シティに本拠地を構えている世界の金融機関は対応に本腰を入れ始めた。日本勢も野村ホールディングス、大和証券グループ本社、三井住友フィナンシャルグループが、ドイツ・フランクフルトに現地法人など中核拠点を立ち上げることを公表している。

EU内における各都市の招致合戦も熱を帯びてきた。特に目立つのがパリだ。仏パリを英シティに代わる金融センターにしようと、フランスは国を挙げて各国の金融機関に秋波を送る。

7月11日、世界の金融関係者らが出席してパリで開かれたフォーラム「ユーロプラス」では、あいさつに立ったフランスのエドワール・フィリップ首相が「パリは準備ができている。フランスは戻ってきた」と、流暢な英語でスローガンをブチ上げた。ブリュノ・ル・メール経済・財政相は米国のウォール街詣でに乗り出し、「フランスは変わった」などとアピールに余念がない。

「仏政権はロンドンを離れ、パリに拠点を構えるように金融機関を説得するため、青、白、赤のじゅうたんを敷いている」。フランスのメディアは政府の積極姿勢を同国の国旗の色になぞらえて伝える。

企業誘致でフランスは不利な側面も

ただ、今のところ、パリは分が悪い。主要な金融機関では、英銀のHSBCがロンドンに勤務する4万3000人の従業員のうち、1000人をパリへ異動させることを決めただけだ。世界規模でビジネスを展開するコンサルティング会社、KPMGの最近の調査では、ロンドンの拠点機能を移転させる意向を明らかにした50の金融機関のうち、新たな本拠として21社がルクセンブルクを選択。13社がアイルランドのダブリンで、日本勢を含む8社がフランクフルトを選んだという。

前出の「グラン・パリ」計画の担当者らは一様に、パリにおける生活面の質の高さを強調する。確かにメトロなど、交通インフラが充実。教育・文化関連の施設も多く買い物や外食にも困らない。

ただし、パリに長く暮らした経験があり、フランスの経済情勢にも詳しい海外の金融機関の関係者は、「生活面の質の高さを除けば、有利な点は何もない」と冷ややかだ。

みずほ総合研究所の吉田健一郎・上席主任エコノミストは、フランスの企業誘致の不利な点として、①法人税の高さ、②企業に対する解雇規制の厳しさ、の2つを挙げる。KPMGによると、フランスの法人税率は33.33%でEU加盟国の平均(21.51%)を上回る。ドイツ(29.79%)やルクセンブルク(27.08%)よりも高く、法人税率下げを武器に直接投資の呼び込みを積極化させてきたアイルランド(12.5%)の倍以上の水準だ。

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