東大合格率No.1の筑駒は水田で生徒を育てる 都心の超進学校が年間を通して稲作する理由

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全身真っ黒、半裸の状態で、まじめにコメントする。頼もしいやらほほえましいやら……。これが秀才集団の素顔なのである。

当たり前のように受け継がれる伝統でもある(写真:学校提供)

農業は学校のアイデンティティの一部

水田稲作学習を指導する主担当が技術科の渡邉隆昌教諭だ。

「筑駒での水田稲作学習には創立以来約70年の歴史があります」

現在は「総合的な学習の時間」として取り組んでいる。

「田植え体験や稲作体験をする学校は全国に無数にあると思います。しかし筑駒の水田稲作学習は、『ちょっと稲作体験をしてみよう』というような気軽なものではありません」

播種(はしゅ)、施肥(せひ)、耕起(こうき)、田植え、除草、防鳥対策、稲刈り、稲架(はさ)がけ、脱穀……全部生徒がやる。脱穀したものをさらに籾摺(もみす)りして、玄米にする。それを業者に渡せば、精米して、翌春、赤飯として納品してもらえる。一部は業者に渡さず、自分たちで餅つきして食べる。

「便利な農機具をできるだけ使わずに、自分たちの体を使って稲作を体験します。直接、稲作を体感してほしいからです。農学系の大学でも年間を通してここまで本格的にやるのは珍しいと思います。海外との交流で、筑駒の生徒が学校の説明をするときに、水田稲作学習に触れることもあります。卒業生も、この経験を大切に思ってくれているようです」

校内に畑もあり、農芸部が活動している。土の多い校内に生える雑草は、各学年が順番に除草作業を行う。田植えの日には中2が、ヤブ蚊に刺されながら校内除草にいそしんでいた。また、筑駒の歴代校長はみな農学系の研究者である。式典での校長講話の内容も農業にからめた話が多いと渡邉教諭は言う。

都心にある超進学校ではあるが意外にも、「農業」が学校のアイデンティティの一部なのである。

「筑駒の卒業生の中で、直接的に農業にかかわる職業に就く人は多くはありません。しかし、多感な時期に、自然と触れ合う経験や生産する喜びを知ることは、人生において大きな意味を持つと思います」

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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