一方で、筆者は、「成長戦略」の中でも、霞が関などの権益拡大とセットになっている政策が散見されていたことに懐疑的であった。政府が特定産業をターゲットにして資源配分を制御するいわゆる産業政策は、歴史的にもほとんど効果が期待できない。政府ができることは、民間のビジネス拡大を邪魔しないルール作りなどの環境整備である。
実際には、最近、獣医学部の新規開設という規制緩和の案件が大きな政治イシューになっている。不要な規制や慣行の見直しを粛々と進めるべきなのはいつの時代も変わらないが、規制緩和のプロセスが政治案件になる典型例のように筆者には見える。
いずれにしても、まっとうな規制緩和は望ましい成長戦略である。しかし、一方で2017年の現在、脱デフレの途上にある日本経済において、総需要政策を高める金融・財政政策の重要性はほとんど変わっていない。インフレ率がまだゼロ近傍で推移しており、また労働市場についても、失業率は低下していても、完全雇用にはなお距離があると筆者は判断している。つまり、働く気があっても就業できていない人は依然残っている。仮にそれが枯渇しつつあれば、賃金はもっと上がっているはずである。
重要性が高い金融・財政政策による成長押し上げ政策
つまり、金融・財政政策による成長押し上げ政策のほうが、依然として、金融市場への影響度合いがより大きい。このため、今後の日本の金融市場に影響するのは、やはり金融・財政政策の出来不出来であろう。
そして、経済政策の司令塔である安倍晋三政権をとりまく政治情勢も重要である。安倍政権の支持率は低下しているが、妥当な政策である金融緩和、拡張財政政策を徹底できるポリティカルキャピタル(政治的資源)がこれから回復するか否かに、筆者は注目している。
それにしても、投資家の立場で筆者が観察していると、春先から安倍政権への批判を強めている、野党、自民党の一部議員、メディアいずれからも、上記の認識を踏まえた経済政策の提言などはほとんどみられない。筆者は、今後の安倍政権について楽観も悲観もしていない。
ただ、現状では安倍政権しか経済政策を任せることができる選択肢が見当たらないことが、日本の政治にとって最大のリスクであることだけはまったく変わらない。
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