ミュラー氏はトランプ一家の経済活動まで調査しようとしているのではないか。ロシア政府とのビジネス上の癒着、不正行為、スキャンダルをめぐる共謀疑惑の捜査・追及である。
ここへきてトランプ大統領がかぎつけたのは、その点こそミュラー氏の捜査が向かっている戦略であり、それは三権分立の立ち位置にある議会が、本来、ミュラー氏に期待していた一線を越えた越権行為というのが、トランプ大統領サイドの判断だ。その報復として、ミュラー氏を解任する考えが浮上してきたとしても不思議ではない。
恩赦よりミュラー氏解任が先か
もしミュラー氏がトランプ一家の経済活動を調査するとすれば、いったい何に手を突っ込むか。考えられるのは納税記録である。租税の記録をめぐって、脱税に限らず、意図的な違反があった場合、その刑罰には米国法上では時効がない。過去にさかのぼって手を突っ込むことができる。
米国はタックスコンプライアンス(納税義務)が厳格な国である。脱税は即、拘置所行きといっても過言ではない。トランプ大統領にとっては、ロシアゲート疑惑どころではない。それを飛び越えて、すべてを失うことになりかねない。しかも、時効が効かないとなれば、自らの恩赦が頭をもたげてくることになる。
さらに、租税問題はさまざまな訴訟に波及する。民事事件には大統領の恩赦は効かないが、訴訟慣れしているトランプ大統領にとって民事訴訟は怖くない。怖いのは刑事事件だ。それには刑事法上問題となりうる連邦税問題もあれば、州税や市税問題もありうる。つまり、連邦法以外に、州の法律によって刑事上の罰則がある。
ここで問題なのは、米国憲法上の解釈論として、大統領が自らを恩赦できるという立場に立ったとしても、大統領自らの恩赦は州法では効かない!という点だ。その権限を行使できるのは州知事であり、大統領ではない。
もし州税での税法その他刑事違反があれば、トランプ大統領は恩赦で自らを救うことができない。となれば、自ら恩赦をする前に、ミュラー氏をクビにする手がある。恩赦より、そっちのほうが先かもしれない。
恩赦はどの大統領でもできる。ニクソン元大統領が辞任したあと、副大統領から大統領に昇格したジェラルド・フォード大統領が、ニクソン氏が司法妨害で訴追される前に恩赦を与えた前例がある。
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