一流の社長には自分よりも優秀な部下がいる

なぜ「守成」は「創業」より難しいのか

あるとき某新聞記者が松下幸之助さんに「1つだけ、指導者、社長に必要な条件を挙げるとすればどのようなものか」と質問したとき、松下さんは「自分より優れた人を使うことができること」と言いました。

記者が帰った後、そのことを話題にすると、松下さんは「それはそうだろう。経営者にとって大事なことは、優秀な部下を集め、あるいは、育てることだ。いくら優れた経営者でも人間一人には限界がある。だから、自分より優れた人を側に集めて、その人たちを活かし使う能力があれば、もうそれだけで十分だ」というような話をしてくれました。実際に、松下さんの周りには、いわゆる「七人の侍」とか「十人の強者(つわもの)」という人たちがいました。

とりわけ、高橋荒太郎さんや丹羽正治さんらは、松下さんも公言するほどの優れた人物でした。そういう人たちなどを、周辺に持ち、配したからこそ、松下幸之助さんは成功したのだと思います。

カーネギーも周辺に多くの優れた人材を集めた

松下さんの新聞記者の質問への答えは、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー(1835~1919)の墓石に「己より優れたる者を周りに集めるすべを知りたる者、ここに眠る」(Here lies one who know how to get around him men who were cleverer than himself) とあるそうですが、まったく同じことです。カーネギーも周辺に多くの優れた人材を集め、育てたのでしょう。

さらに、漢の大帝国を築いた高祖劉邦が、あるとき部下の名将韓信に次のように尋ねます。「私は、どれほどの兵の将になれるか」。すると韓信は「陛下なら10万の兵の将です」と答えます。「それではお前はどうか」。「私は多ければ多いほどいいですね」と答える。「それだけ有能なお前が、なぜ私の部下になっているのか」と問うと、韓信は「陛下は兵の将ではありませんが将の将たる人です」と答えたということです。(『十八史略』)つまり、自分より陛下は、優れた人材を使う能力を持っているということでしょう。実際に、歴史にその名を残す、その韓信はじめ、張良、蕭何が部下であったということからも、そのことがうかがえます。

いろいろな成功例を挙げました。一方、経営がうまくいかなくなる凡々たる経営者は、自分が中心の会社だ、自分が大将の会社だ、という具合に「自分中心」の意識を持ちすぎることが多いようです。愚かにも、優秀な人材に嫉妬までして、「自分より目立っている」「自分より周囲からの評価が高い」とねたみを持ってしまうのです。

自分より優秀な部下がいるということは、それだけ社長が大物の証拠だと周囲は思うはずです。にもかかわらず、そのような低劣な感情を持ってしまう経営者には、優秀な人が集まってこないばかりではなく、逃げていく。

そして競争相手の会社にヘッドハンティングされる。結局は、自分一人ができる範囲でしか、事業は大きくならない。ですから、経営が成功するかどうかは、松下さんの言うように「自分より優れた人を使うことができること」、そのような能力があるだけでもいいのです。

創業社長たる者は、自分より優秀な人材を周囲に集める度量を持ち、育てていくような努力が必要です。それによって「創業より難き守成」すなわち、難しい経営を成功裏に進めていくことができるのです。

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