東京人が知らない北九州発「角打ち」の魅力

これぞ日本が誇るべき文化だ!

現代の角打ち同様、飲食店ではないのでサービスが非常に簡素で、いすなども出してくれず、肴(さかな)があれば簡単なものに限る、という形で飲まれていた。いまや、ほとんどの角打ち、特に九州の北部の店舗では、その接客スタイルがほとんど変わっていないままだ。

角打ちのメッカで知られている北九州市では、戸畑区や小倉地区などの工業地帯で、不定期シフト制で働く製鉄所などの労働者が昼夜を問わず飲めるように数多くの角打ちが生まれた。たとえば、昼に仕事を終えて一杯飲んで帰りたいとき、通常の飲み屋が開いてなくても、角打ちであればちょっと一杯引っかけることができる。

ボリュームのあるおでんや焼き鳥、たまには堅パン(ハードタックとも呼ばれ、肉体労働や昔の戦争の場面での保存食・カロリー補給食)などの北九州名物を、食べながら飲むことも可能(北九州や福岡のこぢんまりとした角打ちでよくおでんが出されているが、これは八幡や戸畑の労働者文化の影響が大きいだろう)。

誰もが「平等」な空間

小さい角打ちに「1人で入るのは難しい」「敷居が高い」と感じる人も少なくないだろう。常連ではないと入りづらい、角打ちでの飲み方がわからない、こうした店のルールを知らないなど、「一見(いちげん)の客」が入りづらいのは当たり前だ。

しかし、ほとんどの店では誰でも歓迎してもらえるし、緊張する必要はない。角打ちを1つのキーワードで表すならば、「平等」が適切だろう。値段が手頃なので誰にでも飲めるし、テーブルごとに客が配置されているのではなく皆が共有スペースで飲みながら触れ合えるし、どんな客でも溶け込むことができる。大学生からサラリーマン、OLや外国人観光客まで皆が同じカウンターで、同じ値段のものを飲んだり、食べたりする庶民的な空間ならではの良さがそこにはある。

私にも角打ちならではの体験がある。あるとき、仕事で北九州に1泊したとき、知り合いが教えてくれた老舗の角打ちを訪れた。見つけるのにも一苦労したその角打ちは、かなり劣化が進んでいる古い商店街の細道にあり、お世辞にもおいしい酒が飲めるような店には見えなかった。

足を踏み入れると、オーナーもなんだか素っ気ない。「無口な人なのだろう」と思い直して店舗の奥にあるカウンターへ。生ビールをちびちび飲みながら、店内を見回して、それから勇気を振り絞って、隣のおじさんに声をかけた。すると、彼も私と同じ日本酒マニアであることがわかり、自然に会話も盛り上がった。

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