中国ブランドには、何が足りないのか? 「カンヌ」グランプリ作品に見るブランド戦略

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この「カンヌ」は今年6月に60回目を迎えました。2013年のグランプリ受賞作に共通するのが「広告やクリエーティブの力を社会の持続的発展に役立てる」意志を明確に持っていることです。たとえば、以前このコラムで紹介したユニリーバの商品ブランドDoveが展開する「Real Beauty」キャンペーン。すべての女性に向けて、美のステレオタイプな定義の呪縛から自らを解放し、自分らしい美しさにもっと自信を持とう、と呼びかけるキャンペーンの最新メッセージが、今年のカンヌでグランプリを獲得した「Real Beauty Sketches」です。

このフィルムでは、プロフィール画の専門家であるFBIの捜査官が、一般女性の顔のスケッチを2種類描きます。1枚目は、本人が語る自分自身の顔の特徴を聞きながら、ブラインドでスケッチを完成させます。次に、その本人を見た第三者に本人の顔の特徴を語ってもらい、スケッチします。この実験を多くの一般女性をモデルに行います。出来上がった2枚のスケッチを比較すると、本人視点の絵よりも他人の証言に基づく絵のほうがより正確で、魅力的で、幸せそうに見えることが明らかになりました。

本人に2枚の絵を見せると、一様に驚きの表情を浮かべ、中には涙する人もいます。日頃、自分の容貌にコンプレックスを感じながら生きている人々に対して、「あなたは自分が思うよりずっと美しいのです。自分のよさを認識して自信を持って生きていきましょう」と呼びかけるDoveの社会的メッセージが、このフィルムによって説得力を持って伝わってきます。

Dove以外にも、人間の価値を互いに認め合おうというコンセプトのフィルムがグランプリを受賞しました。東芝とインテルの共同作品「The Beauty Inside」がそれです。毎朝、起きると違う人間の体に入れ替わってしまう男性が主人公です。「重要なのは中に何が入っているか」というブランドのコンセプトを「人間の外見に惑わされず内面の価値を認め合おう」というメッセージとして伝達しています。

ブランドは、社会的正統性のシンボル

今、ブランドにとって最も重要なのは、「世界にそのブランドが存在したほうがよい」ことを態度と行動で示すことです。その結果、その企業や商品が社会にとってプラスの存在であることが社会の通念となれば、「社会的正統性」を認められたことになります。そこで初めて、適正な利益を上げることが許されます。ただし、稼いだ利益は自分の事業の成長に加えて、社会の持続的発展のために再投資されなければなりません。あらゆる組織や事業や個人がこのような活動を積み上げていけば、世界はよい方向へと回っていきます。そのとき、ブランドはそうした一連の活動の価値観・ビジョン・実績のシンボルとして輝き出すのだと私は思います。

GDP世界第2位の経済大国へと駆け上がった中国には、大規模な事業を行って利益を出している企業や商品が無数にありますが、自国内でもグローバル市場でもブランドとして認められるためには、事業や商品の哲学を社会と共有するためのアクションやコミュニケーションに真剣に取り組むことが必要です。欧米企業と共にこの点ではるかに先行しているニッポンブランドも、事業と社会のベクトルを統合する「ソーシャル・ブランディング」にさらに磨きをかけていくべきではないでしょうか。

岡崎 茂生 フロンテッジ ソリューション本部副本部長

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おかざき しげお / Shigeo Okazaki

1981年東京大学教育学部卒業、1989年ピッツバーグ大学経営大学院MBA。1982年電通入社、2006年より北京駐在。北京電通 ブランド・クリエーション・センター本部長を経て、現職。30年におよぶ広告・マーケティング領域での経験をベースに、中国企業をはじめタイ、アメリカ、韓国、日本企業などを対象に幅広くブランド戦略コンサルティングを行なう。アジア各国およびアメリカの大学/大学院でのブランド講座・公開セミナー、フォーラムでのスピーチ、雑誌連載など多数。チュラロンコン大学商学部マーケティング学科客員准教授、南京大学ジャーナリズム&コミュニケーション学院客員教授、湖南大学ジャーナリズム・コミュニケーション&映像芸術学院客員教授。

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