借金10億円の旅館を甦らせた素人女将の奮闘 追い詰められ週休3日にしたら逆に激変した

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旅館業の経験などまったくなかった2人。経営や、銀行との交渉などは、富夫さんが担当し、知子さんは、女将として実務全般を託された。

しかし、先代の義母は入院中。女将業を教えてくれる人はいない。知子さんは従業員たちの仕事を見ているしかなかった。すると、これが功を奏した。老舗旅館が抱える、数々の問題が見えて来たという。

問題その(1)『多すぎる従業員』

当時、旅館には、20しかない客室に対し、なんと120人以上の従業員がいた。その理由は、老舗旅館ならではの、分業制。たとえば、料理の炭をおこすだけの人。料理を、客室の前まで運ぶだけの人。部屋の前で料理を受け取り、お客様に出すだけの人。さらに、旅館の入り口で太鼓をたたくだけの人。

多すぎる従業員が問題だった

これはあまりに、効率が悪い。そう感じた知子さんは、「手が空いているのなら、他の現場の手伝いを」と提案。しかし、

「女将、私はプライドを持って太鼓番をやっている。他の仕事は、できません」(従業員A)

「女将、それは別の人の仕事です。旅館の仕事は、そういうものです」(従業員B)

ベテラン従業員たちは、新人女将の意見になど、耳を傾けてくれなかった。

崖っぷち旅館には、さらなる問題が。

問題その(2)『従業員の派閥争い』

旅館には、客室がある本館とレストランのある別館、それぞれに厨房があった。2つの厨房を中心に、従業員同士の派閥があるうえ、場所が離れているから、ヒマでも互いを手伝ったりはしない。従業員の軋轢は、お客様へのサービスの低下にもつながっていた。

効率の悪い従業員の配置。派閥争いによるサービスの低下。これこそが旅館の経営を圧迫する原因だと知った知子さんは夫・富夫さんと、2カ月かけて、ずさんだった売り上げや人件費、仕入れ値などを細かくチェック。旅館再生に向け、ある大きな決断を下したのだ。

窮状を包み隠さず打ち明けた

まず夫が旅館の厳しい現状を、社員全員に包み隠さず打ち明けた。さらに、「厨房を改築して1つにまとめます。そして手が空いたら他の仕事も、どんどん手伝えるようにしていきましょう」。知子さんは作業の効率化と、働き方の改革を訴えた。実は、120人を超える従業員のうち、正社員は30人ほど。残りはすべて、時給制のアルバイトで賄っていた。

そこで、社員に、より働いてもらい、アルバイトに割く人件費を減らしたい、そう伝えた。当然、不満に思う社員も多く、「この旅館を守ってきたのは、私たちなんですよ」と不満を漏らす社員も。しかし、知子さんもまた訴えました。

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