借金10億円の旅館を甦らせた素人女将の奮闘 追い詰められ週休3日にしたら逆に激変した

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「(夫は)長男だったけど、旅館を継ぐ気はさらさらなくて、ご両親も家を継がないことで納得していた」(知子さん)

夫が旅館を継がないことは、ご両親も納得している――。そう聞いていたとおり、富夫さんは、卒業後、大手自動車メーカーのエンジニアに。そして、2006年、2人は結婚。翌年には、子供も授かり、知子さんは幸せの絶頂にいた。

ところが、旅館のオーナーだった夫の父が2008年に急死する。そこから知子さんの人生は「劇変」した。

1年後、2人目の子供を妊娠していた知子さんは、出産予定日を10日後に控え、入院していた。そこへ、見舞いに訪れたのは、義理の母親。亡き夫から経営を引き継いだ、旅館の女将だった。義母は、思いもよらぬ告白をする。

「こんなときに、本当になんなんだけど……実はね、旅館うまくいってなくて借金があるの」(義母)

「借金? いくらくらい?」(知子さん)

「10億円」(義母)

実は、夫の実家は10年以上、赤字が続き、借金が膨れ上がっていた。その額、10億円。しかも、そのことをまだ夫には知らせていないのだという。大変な事実を夫よりも先に知らされた知子さん。さらにこの後、義母から驚くべき事実を伝えられる。

夫は連帯保証人になっていた

「でね、富夫も連帯保証人になっているの……」(義母)

その後、先代女将は、心労が重なり、入院。保証人だった夫が、交渉の矢面に立たされた。

夫はまず、旅館の売却を検討。借金の返済を含めて買い取ってくれるところを探すと、あるホテルチェーンが名乗りをあげた。出産を終えたばかりの知子さんも交渉に参加。売却で手にする資金で、義理の母の生活費だけでも賄えればと思っていたが、提示された買取り額は、なんと、たったの1万円だった。 

土地、建物、従業員、すべて手放してもだ。それだけの企業価値しかないと判断されたのだ。

「お年玉かと思った。(旅館)全部で」(知子さん)

旅館すべてを失って1万円もらうか、借金10億円を抱えて戦うか……突きつけられた二択に苦悩する夫、その時、妻・知子さんは言った。

「ねえ、あなた。もう私たちで、やるしかないんじゃない? あなたも連帯保証人なんだし。それに本当は、宮崎の家を守りたいんでしょ?」(知子さん)

この妻の言葉に背中を押され、夫は、借金10億円を抱え、戦う道を選んだ。そして2009年10月、知子さんは、31歳の若さで、老舗旅館「元湯陣屋」の女将に就任する。それは、長女の出産から、わずか2カ月後のことだった。

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