日本のビール業界 キャッシュフロー生成能力強く、M&A投資負担が信用力を損なう可能性は小さい 《ムーディーズの業界分析》
買収や提携のニーズは大きい
格付け対象のビールメーカー各社はまた、売上高の成長を求めて、国内・国外で合併・買収(M&A)への投資を行う可能性が高い。キリンやサッポロがグループの再編に際して採用した持株会社の形態も、M&Aによるグループ構造の変化に対応しやすい形態である。比較的規模の大きなM&Aが行われる場合には、ムーディーズは計画の所期通りの実現可能性はもとより、それにより将来得られることになるキャッシュフローの大きさと安定性、新しい事業ポートフォリオ全体の事業リスクの大きさ、一方でそのM&Aに伴う財務的な負担の大きさを総合的に勘案して、格付けへの影響を判断することになろう。しかし各社とも、既存事業のキャッシュフロー生成能力が比較的強く、堅実な財務方針を採っていることから、これらの要因が日本のビールメーカーの信用力を大きく損なう可能性は小さいとムーディーズは見ている。
ムーディーズは2008年2月20日、キリンの発行体格付け及び無担保長期債務格付けをAa2からAa3に引き下げた。この引き下げは、外部調達資金による2件の買収(協和発酵工業とナショナルフーズ)の結果として、キリンの財務の柔軟性が制約される可能性があり、強固な財務内容の回復にある程度の時間がかかるであろうとのムーディーズの見方を反映したものである。なお、これらの買収により、キリンの事業ポートフォリオは一段と多角化し、ひいては全体としてのキャッシュフローの強化・安定に繋がるとムーディーズは考えている。
格付けへの影響
利益水準は圧迫されているものの、一方で国内工場への設備投資が抑制されているため、各社のキャッシュフローは総じて安定している。その結果、買収に伴う有利子負債の増加を除くと、各社とも有利子負債は削減傾向にあり、このことがムーディーズが格付けするビールメーカー各社の格付けを支えている。
今後一年間程度の期間においては、さらなる大規模な買収等のイベントによる格付けアクションを除けば、格付けは安定的に推移する可能性が高い。
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