サッカー界「暴言問題」の背景にある"病根" 人を敬える選手は育成できているか?

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「日本のサッカー界でいま起きている問題は、指導者たちの問題が大きいのです。試合中にどんなことが起きても動じない、フェアな態度を貫ける選手を育てなくてはなりません」

そう話す池上さんは、「暴言や怒鳴る指導が減りません。地域でそういったことをなくしたい」といった相談をよく受ける。

そのような指導では、子どもはコーチの顔色ばかりうかがって、難しいプレーにトライしなくなったり、アイデアが浮かんでも、教えられたこと以外のプレーを試すのを恐れる。また、ミスをした仲間に対し必要以上に厳しい態度になる。

「そのようなことを、指導者が、ああ、本当にそうだと自分で納得したり、うちの選手がトライしないのは自分が怒鳴るせいだと実感しなくては、何も変わりません」

反対に、よい指導が施されているチームは、どんな様子なのか。

たとえば、池上さんが試合を見る際、コーチの声がけ以外に着目しているものがあるという。それは、ベンチでプレーする仲間を応援している「控えの子どもたち」の姿だ。彼らがベンチからどんな声をかけているかで、そのチームの指導レベルがわかるというのだ。

たとえば、相手に攻め込まれた場面で、味方の選手がなんとかタッチラインの外にボールを蹴り出したとしよう。

そんなとき、ベンチにいる子どもは「ナイスクリア!」と声をかけることが多い。よく見ると、ベンチにいるコーチも同じことを言って拍手を送っている。だが、このコーチングは決して正解ではないそうだ。

フェアであることは「強さ」の源泉

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「マークしてピンチを救ったのはわかるのですが、何も考えずに蹴っていることのほうが多い。実はこの声がけは決してよいことではありません」と池上さんは言う。

一方で、ごくたまにこんな声も聞く。

「今の、コントロールできたよ!」

これは、慌てて余裕なくクリアしてしまった仲間に対し、「落ち着いて処理すれば、攻撃につなげられたかもしれないよ」と知らせてあげる声だ。つまり、ひとつ上のレベルのプレーになる。ほかにも「慌てないで、つないでみよう」とか、いろいろ出てくる。

このような声が聞かれるチームは、以下の3つのことがなされているそうだ。

① 日頃からコーチがそのようなことを教えていること。
② コーチが教えたことが、全体に浸透していること。
③ 上手下手にかかわらず、できていないことを選手同士で教え合う空気があること。

「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士にする」

日本サッカー協会(JFA)が公開している「めざせ!ベストサポーター」という保護者向けのハンドブックは、「日本サッカーの父」として知られる故デトマール・クラマーさんのこんな言葉から始まる。

フェアであることは「強さ」の源泉だ。目の前の勝利を追うのではなく、子どもたちを紳士に育てることが重要だろう。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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