後期高齢者医療制度−−医師のサボタージュが続発、神通力失った診療報酬誘導
75歳以上の高齢者約1300万人および65~74歳の重度障害者約130万人をひとまとめにした後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が4月1日にスタートした。
「住み慣れた自宅で自分らしい生活を送りたい方には、きめ細かい訪問診療を提供します」
「急に病状が悪化した場合でも、あなたの病状をよくわかっている病院に入院できます」
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そして「希望すれば、あなたの選んだ担当医が継続して支えてくれます」と厚生労働省はPRした。
いわく、「個々人にふさわしい治療計画を立て、生活を重視した丁寧な医療を提供します。飲み合わせの悪い服薬も防げます」。
厚労省はポスターやホームページで繰り返しアピールした。
「ご安心ください。今までと同じ医療を受けることができます」
ところが、医療団体の中から「高齢者いじめの制度だ」「自由に医療機関を選べなくなる」(茨城県医師会)といった声が持ち上がり、一騒動になっている。
「地域医療に混乱も」、過半の医師会が問題視
反対の急先鋒である茨城県医師会は、原中勝征会長を中心に全県で反対運動を展開。7月までに20万筆の署名を集めるとともに、月内に厚生労働省に提出する構えだ。
一方、後期高齢者医療制度には賛同する都道府県医師会の中でも、後期高齢者を対象とした診療報酬に対しては、「地域の医療のあり方に混乱をもたらす可能性が高いので慎重な対応を」(大阪府医師会)と会員に警告を発するところが少なくない。
その結果として、厚労省が4月の診療報酬改定で新たに導入した「後期高齢者診療料」の算定を、診療所がサボタージュする動きが顕在化した。同診療報酬請求のために必要な社会保険事務所への届け出では、「青森県ゼロ」「秋田県2」「高知県14」など、ほとんどの診療所が非協力とする県が続出。全国ベースでの届け出数(5月1日現在)も9478件と、内科を主たる診療科目に標榜する診療所の25%にとどまっている。
届け出はしたものの、診療報酬の請求をしない(=不算定)方針の診療所も少なくない。東京都葛飾区の大山高令・大山クリニック院長は、「届け出はしたが算定はしない」とする一人だ。
後期高齢者診療料は75歳以上の入院以外の患者で、糖尿病、高脂血症など13の疾患を主な病名(主病)とする患者に対して、月に1回、600点(=6000円)の診療報酬を算定するというものだ。「担当医」は算定する患者一人ひとりに診療計画書を作り、治療や検査の年間スケジュール、ほかの病院での受診状況、その日の診察や検査の結果などを記入する。そして患者に診療計画書を提供しなければならない。
言うなれば「主治医」「かかりつけ医」の証しでもある。