後期高齢者医療制度−−医師のサボタージュが続発、神通力失った診療報酬誘導
清水院長は今年2~3月に新たな診療報酬ができることや、その特徴や留意点を、患者一人ひとりに時間をかけて説明していった。その努力が実って4月には177人が切り替わり、6月末までで必要な患者への対応をほぼ終えた。
清水院長は同診療報酬を、冷静かつ複眼的な視点で分析している。 「かかりつけ医を評価するというのならば、その発想はすばらしい。ただ、管理の手間がかかるわりには点数自体は粗末だ。高齢者への医療費抑制の考え方が如実に出ている。とはいっても、制約条件の中で最大限の努力をしてこそ、厚労省に対して現場の実情を伝えることができる。もし2年後の改定で、頭ごなしに診療報酬を下げるようなことがあれば、現場の努力は水の泡だ」
清水院長は担当医制の効果として、「服薬の重複が減っている可能性」を挙げる。その一方で、「高齢者が通う診療所の数が減少しているかはわからない」としている。
しかし、清水院長のように、医療行政に批判的な視点を持ちつつも、新たな診療報酬を正面から受け止めて取り組む医師は減っている。
「今回ほど、診療報酬がボイコットされたりサボタージュされた例を知らない。今までは羊のようにおとなしかった医師会が声を上げるようになった。そして現場の医師が厚労省の言うことを聞かなくなっている」(清水院長)。
都内のある医師会の地域支部が会員向けに行った、後期高齢者医療制度に関するアンケートの調査結果が手元にある。調査時期は4月下旬~5月初めで回答数は19件と多くない。しかし、そこでは後期高齢者医療制度および後期高齢者向け診療報酬に対する開業医の不信感がはっきりと見て取れる。
同医療制度の開始について、「問題あり」が15件に上ったのに対して、「問題なし」はわずか1件、「やむをえない」は3件だった。
「問題あり」の理由としては「医師もよく理解していない。患者に聞かれてもよくわからない」「かかりつけ医の発想は医療機関の連携を破壊する」「在宅看取りは家庭を破壊する」「事務的順序、説明が十分でない」など、多岐にわたった。
また、高齢者担当医については、「反対」14件に対して「賛成」ゼロ件、「やむをえない」2件。
反対の理由としては、「高齢者1人につき主病は一つであるべきとの考え方には納得できない」「主治医制は賛成だが、患者のフリーアクセスの権利は尊重すべき」などが挙がっている。
厚労省は後期高齢者診療料は「フリーアクセスの制限につながるものではない」と言うが、現場からはすでに懸念が持ち上がっている。その証左が、同診療料に対する県医師会の冷淡な対応にほかならない。